【沖縄県】香り高い月桃の精油づくり
香りと旅しての取材旅。第3弾はなんと、めんそーれ沖縄!
昔から地元の方に親しまれてきた「月桃」。その香りを長年作り続けている日本月桃さんにお話を伺ってきました。
南の島の花「月桃」
月桃(げっとう)という植物を知っていますか?
神奈川生まれ、東京暮らしのわたしも、今回の取材の下調べで初めてその存在を知ったのですが、月桃は薄桃色の花を付ける、とてもきれいなショウガ科の植物。
日本では沖縄や奄美諸島、小笠原諸島などの温暖な地域でしか育たないそうで、その茎はハガキや壁紙などの「月桃紙」に、種子や葉は「月桃茶」として親しまれているのだそう。
さあ、この南国情緒あふれるお花から、どんな香りがするのでしょうか。
いよいよ取材開始です!
30年続く島の香りづくり
今回取材をさせていただいた日本月桃さんは、30年ほど前から月桃の香りを作り続けている老舗の会社。
月桃を見るのも嗅ぐのも初めてのわたしたちは、早る気持ちを押さえつつ、さっそくその製造現場にお邪魔しました。
前日に香りを抽出していたという月桃がまだ釜の中にあるということで、さっそく中を見せていただくことに。大きな蓋を開けると、ホカホカとした蒸気が立ちのぼり、月桃の香りが辺りに立ち込めます。
てっきりあのかわいいお花の部分から香りを採るのかと思っていたのですが、釜の中から現れたのは大量の葉っぱ!月桃の香り(精油)づくりは、葉の部分だけを使って香りを抽出するのだそう。
「これが月桃の香り!」
初めて嗅ぐ月桃の香りは、植物特有のスーッとする爽やかさの中にも、少し重みも感じられるような、なんとも心地のよい香り。
日本月桃さんでは、シマ月桃とタイリン月桃という2種類の月桃を自社農園で育てていて、一年を通して収穫作業と香りの抽出作業を行っていると言います。
月桃は、「水蒸気蒸留法」という方法で香りを抽出していきます。
水蒸気蒸留法は、高温の水蒸気を葉の入った蒸留釜に送り込んで葉の香り成分を気化させ、その香り成分を含んだ水蒸気を別の装置で急激に冷やして、再び液化し、精油成分を抽出していく方法のこと。
水蒸気蒸留法の詳細はこちら。
一度の蒸留に150kgもの月桃の葉が使われるというから、これはかなり大掛かりな作業。そしてそのうち精油として採れるのは、シマ月桃がおよそ50cc、タイリン月桃は200ccほどなのだとか!とても希少な香りなんですね。
沖縄の暮らしに寄り添う香り
香りの抽出(蒸留)が終わった葉は手作業で釜から掻き出していくとのことで、わたしも少し体験させていただくことに。
フォークのような農機具を使っての掻き出し作業は、見た目以上にハード!水気を含んだ月桃の葉はとても重く、なかなか思うようにすくうことができません。ぎこちない動きのわたしを見兼ねて、この道ウン十年?の金城さんが早々に助け舟。
いつも金城さんお一人でこの蒸留作業をされているそうで、
「毎日の仕事となったらね。軽いもんですよ!」
と、慣れた手つきでザックザックとすくい上げていきます。
「最初から網とかに入れておけば、一度に取り出せるんだけどね、香りの採れる量に影響しちゃうからね。だからずっとこういう原始的なやり方よ」
明るく朗らかな沖縄言葉で話す金城さん。
沖縄では子どもの成長を願って、月桃の葉でくるんだ「ムーチー」というお餅を食べる習慣があるそうで、
「わたしもここで毎日香り作ってるからねー、体に月桃の香りが染み付いているみたいで。この前もお店ですれ違った子が「ムーチーがある!」って言って、お店の中でムーチー探してた。笑」
なんとも微笑ましいお話しに、わたしたちもすっかり引き込まれてしまいます。
月桃は虫除けの効果もあるそうで、昔は月桃の葉を玄関に置いておいたり、乾燥させた葉をタンスに入れて服の虫除けに使われていたこともあるのだとか。
月桃は、沖縄の人たちの暮らしに寄り添ってきた存在なんですね。
品種で異なる月桃の香り
こちらが日本月桃さんで作られた、シマ月桃とタイリン月桃の精油。
シマ月桃は、爽やかさの中に少し甘さも感じられるようなマイルドな香り。奥行きがあって、リラックスしたい時に重宝しそうです。
タイリン月桃は(釜を見せてもらったあの香りですが)釜から嗅いだ時は爽やかさの中に重みのあるような感じも受けましたが、精油として完成したものは、清涼感のある爽やかな香りでした。森林を思わせるような感じもあり、お部屋のリフレッシュや気分転換に良さそうです。
同じ月桃でも、品種によってこんなにも香りに違いが出るとは。
ちなみにわたしはタイリン月桃の方が好みで、一緒に行った相方はシマ月桃の方が好きとのこと。香りも、人によって好みが分かれるところが面白いですね。
月桃の切り分け作業と蒸留の準備
「今日はまだ葉っぱが集まらないからねー、今日は蒸留できないかもー」
和やかな雰囲気の中、順調に取材をさせてもらっていたわたしたちに、金城さんから衝撃の一言が。どうやら150kg分の月桃の葉が用意できそうにないとのこと。
どうしよう!
月桃の蒸留工程も見せてもらいたいと思っていたので、想定外の展開に焦る編集部。この日の便で帰る予定だったけれど、今日蒸留の工程が見られないとなると、明日まで延泊?飛行機って振替できたっけ?などと瞬時に頭をめぐらせていると、なんだか表の方が賑やかに。
月桃を収穫してきたトラックが到着したとのことで、わたしたちも急いで見に行きます。
背丈は4mほどもあるでしょうか。初めてみる月桃の姿は、とにかく「大きい!」の一言。
トラックの荷台から次々と月桃が運び込まれ、すぐ隣では葉と茎を切り分ける作業が始まりました。
一本一本カマを使った切り分け作業は、とにかく時間がかかるそうで、
「切り分けずに葉と茎を一緒に蒸留することもできるんですけど、えぐみのないクリアな香りにするにはやはり葉っぱだけを使った方が良いので」
と碓井社長。
切り落とされた月桃の葉は一枚の長さが60cmほどもあり、これを使いやすく10kgずつの束にしていきます。
一度の蒸留作業で必要なのは150kgなので、この大きな束が15個分!これは想像以上に手間と時間のかかる作業です。
蒸留の工程を一から見たいと思っていたわたしたちでしたが、時刻はもうお昼過ぎ。この切り分け作業の大変さを目の当たりにして、この葉っぱの束を15個も今から用意するには、かなりの時間がかかると容易に想像がつきます。
蒸留の見学を諦めかけた時、
「葉っぱをカットして、釜に入れ込んでいくシーンだけでも撮る?」
と、碓井社長。
金城さんも作業の手を止めて、撮影に協力してくださることに。親身になって取材に応えてくださるお二人に感謝しながら、お言葉に甘えてお願いすることにしました。
葉っぱは細かく裁断することで表面積が増え、切った断面から香りが出やすいのだそう。
後日、作業工程のお写真もいただきました。本当にありがとうございます!
広大な大地で育つ月桃
最後に、月桃を栽培している農園にも案内してくださいました。
沖縄本島から少し離れた場所にあるこちらは、見渡す限りの広大な土地に、ゆったりとした間隔で月桃が植えられていました。
この日は風がとても強く、大きな月桃の葉がざーっと風になびく姿は圧巻!
日本月桃さんでは、農薬や化学肥料を使わない有機栽培でこれらの月桃を育てています。
月桃は一年で2mほども成長するそうで、ここのエリアの月桃は来年の収穫に備えている段階なのだとか。こちらの農園だけでもかなりの広さがありましたが、まだ他の場所にも畑を所有されているそうで、それを少ない人数で毎日のように収穫しているのだと言います。
収穫は一本一本カマを使って刈り取っていく手作業。根気のいるお仕事です。
成長が早く生命力にあふれる月桃ですが、乾燥には弱いのだそう。こちらではその乾燥対策として、香りを抽出した後の葉を株元に撒いています。土の肥やしにもなり、ゴミにもならず一石二鳥ですね。
日本月桃さんでは月桃の精油づくり以外にも、虫除け・消臭商品などの販売や、茎の部分を月桃紙作りをしている製紙工業に卸していたり、化粧品などの原料として月桃の葉を出していたりと、そのお仕事は多岐にわたります。
今では沖縄の県立高校の9割以上が、卒業証書にこちらの月桃で作られた月桃紙が用いられていて、その功績も碓井社長の営業活動の賜物。
沖縄出身の有名アーティストたちも、こちらの月桃の卒業証書を持っているかもしれませんね。
まさに「月桃尽くし」の碓井社長のお仕事。
自分が良いと思えるものを、みんなにも知ってもらいたい。そんな真っ直ぐな思いが、お仕事への姿勢に表れているように感じました。
お忙しい中、快く取材に応じてくださいました碓井社長、金城さん、本当にありがとうございました!
日本月桃/月桃農園
沖縄県那覇市前島2-15-12
098-869-1336
HP