香りと旅して

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【熊本】阿蘇小国の森の贈りもの

江戸時代から受け継がれてきた小国林業。
森を守り、次世代へと繋ぐ「小国森林組合」は、この地で育つブランド材「小国杉」の魅力を最大限に発信し続けています。
森とともに暮らす小国町、そして組合で丹精込めて作りあげられる小国杉精油に密着します。

「小国杉」とは

「小国杉」は、建築に適した粘り強い木材として高く評価されています。
一般的な住宅の建材にとどまらず、九州国立博物館の収蔵庫(福岡県太宰府)や、阿蘇くまもと空港出発ロビーの天井に採用されるなど、国の施設にも選ばれる実績の持ち主。

阿蘇小国町にも、小国杉をふんだんに使用した建築「小国ドーム」や「道の駅ゆうステーション」、そして今回訪れた「小国町森林組合」など木造建築群が町並みを彩っています。

阿蘇くまもと空港出発ロビー

江戸時代から小国杉が育ち守られてきた理由には、小国ならではの土地と気候が大きく関係しているそう。
熊本の名山、阿蘇の裾野に広がる小国町は、標高400mを超える山間高冷地帯。九州でありながら年間平均気温は東北地方レベルなのだそう。
夏は比較的涼しく、冬は一帯が凍結し、マイナス10℃を下回る日もあります。
年間降水量が多く、盆地のため、霧の発生が多いことなどで杉の生育に適した環境となっています。

小国町でみられる杉は、主に「ヤブクグリ」と「アヤスギ(ヤクノシマ)」の2種類。
この見分け方と特徴については、また後ほど。

森の贈りもの「小国杉精油」

今回お邪魔した小国町森林組合は、小国町を中心とする森林所有者で構成される協同組合です。そこで、アロマディレクターとして勤務されている渡邉さん。

2014年のアロマ事業立ち上げを機に、本格的にアロマを学びはじめ、2017年、AEAJ(日本アロマ環境協会)が主催するフレグランスコンテストで上位5選に入選した経験の持ち主。
そんなすごい方に取材できるとあって、胸が高鳴る編集部。

はじめに伺ったのは、森林組合が管理している原木市場。ここでは、伐採された木が運ばれ、サイズや品質を選別、販売が行われています。
その一角に、小国杉精油の抽出現場があるそう。

案内されて建物内に入ると、まさに精油抽出準備の真っ最中。今日が今年初の抽出のようで、みなさん気合が入っている様子です。
小国杉は、蒸気を当てて精油を採る「水蒸気蒸留法」が用いられます。

「天気がいい日に森で採取してきた杉の葉と枝を粉砕するところから始まります。雨が降って杉の葉が濡れてしまうと、粉砕しにくいため、できるだけ天気のいい日に抽出しています。」

「1回の蒸留は、杉の枝葉が10〜13kgほど入る窯を4台同時に稼働させます。1日2回ほどやるのを数日に分けて行ってます。蒸留時間は、大体2〜3時間ですかね。長時間抽出することもできるのですが、長いからといってたくさん精油が取れる訳でもなくて。毎回、試行錯誤しながら調整しています。」

採取仕立ての杉の枝葉(約11kg)
トゲトゲツヤツヤ

小国杉精油は、柑橘系の甘酸っぱい香りと爽やかなウッディさを併せ持った香りが特徴。森を彷彿とさせるような澄んだ香り立ちがとっても印象的。

「主成分には、リラックス効果をもたらすα-ピネンや柑橘系に多く含まれるリモネン、そしてティートリーなどに多く含まれるテルピネン-4-オールなどがありますね。ブレンドしても他の香りと喧嘩することなく、馴染みやすく甘酸っぱい爽やかな香りが引き立つんですよ。」

さすがは、渡邉さん。
香りの説明がわかりやすく、成分まで紹介してくれる……私のメモする手が止まりません。

左の遮光瓶は、昨年11月に抽出し、保管されている精油。右側は、250年の歳月をかけて育った杉の大木から抽出した「アンティークウッド」。
嗅ぎ比べてみると、左はすっきりと爽やかな印象。対して、右側はさらに深みが増したような奥行きのある香りに。

「主成分に大きな差はないようですが、香りの印象はほのかに違うから面白いんですよ。アロマコンテストでは、小国の森を表現するためにアンティークウッドを使用しました。」

森の香りを体感したところで、早速蒸留の様子を取材させていただくことに。

いざ!精油の蒸留

精油抽出の現場は女性2名のみ。

そのうちの一人のルミさんは、組合の中で元々別の業務を担当していたそうですが、精油事業が始まった年にアロマの抽出を担当することになり、日々の業務と兼任で、試行錯誤しながら抽出をしています。

「窯のメーカーさんに動かし方を教えてもらっただけで、後は作業しながらですかね。難しいことばっかりで正解がないんですよ。葉っぱや枝をたくさん窯に詰めた方が精油が多く取れるのもやりながらわかったこと。自分がやっているなんてびっくりですね。」

お話も程々に、さっそく蒸留前の下準備「粉砕作業」が始まります。
機械に原料を入れると、大きな音を立てて葉や枝が細かくなって排出されていきます。

「細かくすることで精油が抽出しやすくなるので、この作業は1袋あたり2回繰り返すんです。外でやる作業なので、冬は寒いし、夏は炎天下なので意外と過酷なんですよね。」

4窯分(×2回)を粉砕するとあって、見ているだけでもかなりの重労働。

細かく粉砕されていきます

30〜40分ほどで全ての粉砕が終わるといよいよ蒸留作業に。原料を専用のネットに移し替え、それぞれ窯の中へ。

あっという間にセットが完了すると、窯の中へ蒸気を送り込むボイラーを稼働させていきます。

ゴーッ!シューッ!

大きな音と共に、次第に窯から勢いよく蒸気が湧いてきました。
ここからがルミさんの腕の見せどころ!

送り込む蒸気の量をハンドルをこまめに調節していくと、

コトコトコト…….
まるで手懐けられたペットのように一気に静けさが戻っていきました。

毎回記録は欠かさないルミさん

蒸留中は窯に目を配りながら次の蒸留用に粉砕作業や梱包用の緩衝材づくり。
取引のある木工職人さんが分けてくださったカンナ屑を、それを細かく手で裂いていくのだそう。

「全て小国産でできた精油をたくさんの方に、いろんな形で楽しんでもらいたいですね。そのためにも抽出量を増やして行きたいけど、今は需要と供給のバランスをみて調整しているんです。」

2時間後。
蒸留が終わった窯を開けてみると….

モワモワ〜
大量の蒸気とともに広がる、精油とは違うやや甘さを感じる香り!なんだか落ち着く….。

「抽出した精油は、遮光瓶に入れて8〜10℃で保管します。」

この日、1回で抽出できた精油は約170mL。
「年初めにしてはなかなか良い方じゃない?午後はどのくらいとれるかね〜」

荒熱が取れた抽出後の原料は、外にある処理場へ手で運んでいきます。
水分を含んでいるため、女性二人がかりでやっと持てるくらいの重さに。

「九州大学で以前に精油について分析をしているんですが、残った方にはおそらくポリフェノール が多く含まれている可能性があり、消臭効果も期待できるみたいなんです。試しにサシェを作ってみようとしたこともあったのですが、なかなかうまくいかなくて。」

一定期間保管した精油は、ひとつひとつ手作業で瓶詰めされていきます。
原料の加工からパッキングまで、作業工程すべてに愛情が込められた小国杉精油。

「こうして瓶詰め作業をしているだけでも杉のいい香りが広がるんですよ。小国の道の駅や周辺のホテルに置かせてもらってるんですが、最近は外国人観光客からの人気がすごいみたいです。嬉しいですね。」

森の香りは、国境に関係なく愛されていることがわかります。

先ほどの、蒸留の合間。
何やら木の繊維を細かく割いていたおふたり。

何かの燃料にでも…..?

「うちから木材を買っていった木工職人さんが余ったカンナ屑を取っといてくれて。細く割いてパッケージの中に詰める緩衝材として使ってるんですよ。今はそれの準備ですね。」

緩衝材まで小国杉でできているなんて。
細く割いたものを触ると確かに程よい硬さと弾力があって、それでいてこれまたいい匂い。

「わたしたちの役割はあくまでも森を守ること。無理に多く生産したりせず、需要と供給のバランスを大切にして精油づくりを続けています。」

“森の贈りもの”を余すことなく、最大限に活用していくことで小国の森、小国杉の良さを多くの人に伝えていきたい。
小国杉精油にかける想いはみんな同じのようです。

続き「阿蘇小国の森で働く人々」はこちらから

小国町森林組合
住所/869-2501 熊本県阿蘇郡小国町宮原1802-1
電話/0967-46-2411
HP

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