香りと旅して

香りと旅して

【徳之島】ようこそ!「フィットンチットンの森へ」

徳之島で国産珈琲を栽培している「宮出珈琲園」を訪れている香り旅編集部。ついに、宮出さんの理想郷とも言える「フィットンチットンの森」へ。ここではどんな素敵な出会いが待っているのでしょうか。

森の入り口

じゃがいも畑から車を走らせること数分。山間の道幅が少し広がったところで突然の停車。
宮出さんの珈琲園は、突然現れました。

秘密基地さながらの入り口に興奮気味の編集部。

ここが絵本の題材となる森かぁ。入り口から雰囲気がすごい。

「足元に気をつけてね。」
宮出さんの後に続き、さっそく森の奥へと続く階段を降りていくと、、

建物の中心には25mもの大きな木が立っています

1年以上かけて作り上げたという立派な「森のおうち」がひっそりと建っていました。なんと、学生や珈琲好きな社会人など総勢50名ほどで建てたのだそう!早速お邪魔すると中はとても広々としています。
12面ある壁には大小様々な”窓枠”はいくつもあるけれど、肝心のガラスが見当たりません。

その日吹く風や木漏れ日を肌身で感じてほしい、珈琲を飲みながら、森に植えてある珈琲の木を眺める「森林浴コーヒー」を楽しんで欲しい、そんな想いからガラスはあえて付けていないのだそう。宮出さんらしい、ユニークで愛のある設計です。

この日もサワサワと葉が擦れる音や土の香り、温かい木漏れ日が建物の中にまで届いていました。

「さて、コーヒーセレモニーをはじめよう!」

宮出さんの号令を皮切りに、何やら準備がはじまります。

コーヒーセレモニー

手際良く準備が進められます

宮出さんの号令とともに、スタッフさんたちは手早くコーヒーセレモニーの準備に取り掛かっていきます。
コーヒーセレモニーとは、お客様をもてなす時に行われるエチオピアの伝統的な習慣。
宮出珈琲園はお客様の訪問が多く、この森でセレモニーを行っているそうです。

「焙煎もね、すべて任せるようにしているんだよ。手順だけ教えて、あとはそれぞれ工夫しているはず。珈琲の味は、作る人によって性格が現れるんだよ。」

我が子を見るように、スタッフさんを優しく見守る宮出さんは、みんなのお父さん的存在。

今日のセレモニーでは、葉を発酵させた珈琲をいただきます。
発酵させた珈琲の葉は、まるで枯れ葉のよう。この時点では香りは、あまり感じられません。分量を測り終えると、手廻しの焙煎機に入れ、いよいよ焙煎開始です。

時々葉の様子を見ながら焙煎していきます

一定のスピードでハンドルを回しながら、中に入れた葉が焦げないようにゆっくりと焙煎していきます。静かな森の中に、キーコキーコと、焙煎機が擦れるなんともいい音が森の中に鳴り響きます。

お話をしながら待つこと30分。ようやく焙煎機から煙が出現!
その途端、香ばしい香りがほんのりと漂い始めてきます。

おぉー!

思わずもれる歓声と拍手。

「さぁ!急いで移し替えて!」

熱々の焙煎機から煎った葉をボウルに移し替えると、ここからは宮出さんの出番。

焙煎を終えるとすぐさま冷却作業へ。
こうすることでよりマイルドな味になるので、欠かせない工程です。

香ばしい香りがふわ〜っと広がります

こうして出来上がった「葉珈琲」がこちら。
普段目にする珈琲よりもかなり色が薄い!でも、珈琲の香ばしい香りはしっかりと漂っています。

思っていたよりすっきりとした印象

ただ焙煎しただけの葉珈琲は苦味が強く出てきてしまうので宮出珈琲園では焙煎前に葉を発酵させているとのこと。
ひと口いただくと、どことなくほうじ茶のような少しスモーキーな風味も感じられます。

昔、経営していたカフェで珈琲を提供していた宮出さん。
「紅茶」を注文したお客さんの言葉をきっかけに珈琲の葉で研究を始めたのだそう。

「紅茶がないなら、「じゃあ、カフェオレで。」という言葉が引っかかってね。妥協されているように感じちゃったんだよ。だから、珈琲で紅茶ができないものか、と思ってね。」

森の中の宮出さん、本当に楽しそう

「紅茶も葉っぱから出来ているんだから、その葉っぱを珈琲に変えてみただけ。紅茶を目指していたはずなのに、紅茶の渋みに必要な成分が、珈琲の葉には少なかったみたいで、あの独特な渋みが出せなかったんだよ。でも、結果的に良いお茶が出来上がったってわけ。」

「狙ったところとは違うところに着地するって、仕事をする上では結構面白いんだよ。」

研究や理想と違った結果になったとしても、すべてを受け入れ楽しんでいる宮出さん。
働く姿勢でさえ、勉強になります。

さて続いては、宮出珈琲園のブランド「Coffee Tree Apartment」から、「果実珈琲」をいただきます。珈琲の木には、豆だけでなく葉も花も果実もあり、それらが「住人」として幹を中心に成長している。珈琲の木に住んでいる「住人」をすべて味わい尽くしてほしいという想いが込められています。

コーヒーの果実を煮出します

同じく煙が上がるまで、焙煎機をキーコキーコと回していきます。
先ほどとはちょっと違った甘さを含んだ香りがあたりに漂い始めます。

「飲んでみたら驚くよ。お酒は好きかな?」

香りもなんだかさつまいものよう!

ひと口いただくと、珈琲の中にさつまいものようなこっくりとした甘さがやってきました!まるで「芋焼酎」を飲んだ時のような、まろやかな風味が鼻から抜けていきます。

あ〜!美味しい!

ひとことで「珈琲」と言っても、ここまで変わるなんて。
奥が深いぞ、珈琲の木。

「僕はね、窓辺に座って飲む珈琲が好きなんだ。ぜひやってごらん。」

宮出さんに促されるまま、大きな窓辺に移動することに。

自分の世界に入ってしまいました…

(この時、取材ということを完全に忘れぼんやりとしています。)

淹れたての珈琲を飲みながら、珈琲の森を眺める。すごく贅沢な瞬間でした。

「珈琲のあるところに人は集まる。」

今回、取材に来られたのも何かの巡り合わせだったのかと感じました。

この出会いに、心から感謝です。

フィットンチットンの森

どこまでも広がるフィットンチットンの森

最後に、宮出さんは森を案内してくれました。

「五感で森を感じられる場所を作りたいんだ。大人も子どもも一緒になってのびのびと楽しめる、そんな場所を目指しているんだけどね、気長に作ろうと思っているよ。」

控えめな口調ですが、宮出さんの頭の中には森の構想が既にあるようです。

「そこに流れている川のほとりには、御座敷が敷ける「川床」を作って、珈琲を飲めるスペースにしたいんだ。その横には、子どもたちが遊べる広場を作って。
こっちの奥には、森の絵本小屋を作る予定なんだ。」

宮出さんとお話をしていると、本当にその風景が目の前に広がるかのように見えてきます。

森の中にいる宮出さんは本当に楽しそう

そうそう。

この森の名前、「フィットンチットン」とは、木々が発する香りの成分 フィトンチッド から由来しています。

皆さんも癒しを求めに自然の中へ、「森林浴」をしに出かけたことがあるかと思います。
森の中は、どこか清々しく身も心も爽快感を体験できるなんとも不思議な場所。
この効果をもたらしているのが、まさしくフィトンチッド。

人間にとって深いリラクゼーション効果が期待できるフィトンチッドを、五感で体験してほしい。そんな想いがこの森には込められているのです。

宮出さんの元には、今日も全国からたくさんの学生さんや珈琲が好きな方々が訪れているはず。
この日出会ったみなさんも「自ら考え、行動する。」しっかりと先を見据えて働いていました。都会に住んでいたら、できないようなワクワクした経験をたくさんできるなんて本当に羨ましい限りです。

何やら作業中のみなさん

「今はまだ寄り道の途中。」

そうお話する宮出さん。
これからどんな面白いことを想像し、実現していかれるのでしょうか。

この出会いに感謝し、宮出さんの作る珈琲と癒しを求めて遊びにいかせていただきたいと思います。

素敵な笑顔をありがとうございます!

お忙しい中、快く取材に応じてくださいました宮出さん、スタッフのみなさん、じゃがいも畑の農家さん、本当にありがとうございました!

前編「珈琲と寄り道の途中で」記事へ

中編「珈琲の森を目指して」記事へ

宮出珈琲園
鹿児島県大島郡伊仙町 義名山体育館前事務所
HP

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