香りと旅して

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【熊本】阿蘇小国の森で働く人々

阿蘇山の裾野に広がる熊本県小国町は、地域の約78%が森林という豊かな自然が残る地域。この地で250年前から人々の手によって守り育てられてきた「小国杉」。その想いを継承する小国町森林組合にて2016年から始まったアロマ事業の活動に密着します。

想像以上の体力仕事!!!

蒸留の現場を取材した日は生憎の雨。
なんとしてでも森の中も感じたい!アテンドを担当してくれた渡邉さんに懇願し、翌朝の収穫も同行させていただけることに。

朝9:00前。

車で現場へ行くと既に収穫作業は始まっていました。

「おはようございま〜す!!」

普段の声量で発したつもりの挨拶。
朝の森の中で反響しあって遠くまで届いて少し恥ずかしい…
清々しい空気に包まれた小国杉の森。体が目覚めていくような感覚です。

雨上がりの森は想像以上にぬかるむ。事前に情報をいただいていたため、底が厚いブーツを履いていったのですが、その甲斐もなく。
お二人が作業している場所に辿り着くころには、底の厚さ、靴の重さは2倍に。

「雨上がりの作業は足元が取られるから結構大変なんです。夏は暑いし、冬は極寒なんですよ。」

渡邉さんは上手にぬかるみを避けズンズンと進んでいきます。さすが過ぎる。

「蒸留に使う葉っぱは、緑色のフレッシュなものをできるだけ採るようにしています。」

作業中のお二人は、サクッサクッとテンポよく枝の部分を切っていきます。

「今ではこんなに切れるようになったけど、始めた頃は親指の付け根が腱鞘炎になったのよ。切り口からヤニが出てきて、服も汚れちゃうから気をつけてね!」
何から何までやさしい気遣い。

1日2〜3往復することもある採取。急な斜面での中腰作業や大袋を持っての移動など、普段はデスクワークばかりの私たちには到底マネすることのできない仕事です。

「森の中の作業は大変だけど空気が気持ちいいからね、ここに来るといつも深呼吸をしてしまうんです。作業は大変だけど、森の中は好きですね。」

原料の入った袋を持って森を歩くのは、女性にはかなりの重労働。

「木こりさんがいる時は、車まで運んでくれたりするんですよ。」
この日もヒョイっと2袋を持って運んでいたのは、この現場を任され、木を伐採している河津さん。
”山の男”はたくましい!

4袋全てを車の荷台に乗せ終わると、蒸留の現場へと戻っていきました。

圧巻!40m級の小国杉の伐採

渡邉さんと河津さんの計らいで、せっかくだからと杉の木の伐採も見学させていただけることに!
自然大好き人間ですが、人生のほとんどを都内で過ごしている私。
伐採現場を生で見れる日が来るなんて…..!
(この仕事、やってて良かった。)

「あっちに倒すから、この辺りか僕の近くで見る分には大丈夫ですよ。」

言われた通り、いざスタンバイ。
すると、河津さんは早速木の根元にいき、角度や切り口などを入念に確認しながら作業を進めていきます。

チェーンソーが稼働すると、森の中には、キュイィィィン!と大きな音が鳴り響きます。
固唾を呑んでカメラをまわす香り旅編集部。

切る位置を慎重に確認して行きます
ハンマーで亀裂を入れて…

3分後。
「少し離れてね。」そう言った瞬間。
ドォーーーーーン

てっぺんが見えなかった大きな杉の木が地面へと倒れると同時に、心臓にまで響く地鳴り。
感動してしばらく言葉が出てきません。

「びっくりしました?山の斜面や周りの状況を見ながら切り方を考えているので、1本切るのにも頭を使うんですよ。この木はこの後はトラックに載るサイズに切って下へ運んでいきます。」

手作業で40mもの木を切っていく河津さん。
森を、杉を知り尽くしているからこそできる職人技に圧倒される編集部なのでした。

小国の森を守り伝える。「小国町森林組合」

最後に、今回お邪魔した小国町森林組合で、インタビューを敢行。
森林の高い知識と技術を持った職員が多く在籍し、地域の森林所有者それぞれに合わせた林業経営のプランを提案し、実行、サポートしている森林組合。
小国杉の生産から管理、販売まで一貫して行っています。

事務所を訪れると、外観だけでなく内装までもが小国杉一色!
窓に吊るされていたブラインドまで小国杉で作られているとあり、驚きを隠せない私たち。

小国町で杉の生育が盛んになったのか。早速、その真相に迫っていきます。

渡邉さん(左)と参事の簗瀬さん(右)

「森林の管理は1年を通して行われ、伐採した森林には春・秋2回の植林作業をしています。ここで行われているのは「挿し木」と呼ばれる手法ですね。種から苗を育てるのではなく、今生えている杉の木の枝先をポットに植えて、ある程度の大きさに育ててから森に植えていくんです。」

そう教えてくれたのは、この森林組合で長年勤務している簗瀬さん。

こうすることで、同じ性質を持った杉の木を増やすことができるため、品質を揃えやすいという利点があるといいます。
林業における長い歴史や限定された品種、木材の品質が揃えやすいことなどの条件から、小国杉は2008年に地域登録商標として登録されています。

さらに、小国町森林組合は「SGEC」という森林認証制度を全国で2番目に取得しています。
「これからの小国林業を発展させる上で、消費者に安心して使ってもらえる商品を生産していくことが大切だと考えています。そのためには、環境への配慮といった背景も含めて、山ごと認証された森林から生産された木材だという証明が必要でした。」

森林管理はもちろん、地熱といった低炭素な技術の採用や啓発イベントなど環境問題にいち早く取り組んでいる小国町。
今では、その活動さえも小国杉のブランド化に更に影響を与え、製材所からの買付も増えてきているといいます。

「小国杉は、強度が高いから建築材だけじゃなく加工次第で何にでもなれるんですよ。」
小国杉のぬくもりに包まれた空間で、簗瀬さんは笑ってそう教えてくれました。

事務所には小国杉でできた製品がずらりと並べられていますが、そのバリエーションはまるでセレクトショップのよう。

小国町に生育している杉は「ヤブクグリ」と「アヤスギ(ヤクノシマ)」の2品種がほとんどを占めています。

「ヤブクグリ」は、強度と粘りがあり、材質が良いため、特に板材や建築材に適していると言われています。森の中では、根元が曲がっているのが特徴のよう。
一方の「アヤスギ(ヤクノシマ)」は、真っ直ぐに成長する品種。こちらも強度があるため、建築物の柱材に適しています。
ゆらぎのある木目が現れ、色ツヤもいいことから内装材として多くの製材所が買い求めていくようです。

町をあげての”小国杉活動”

驚くことに、小国町では1歳になった赤ちゃんに、職人さんがひとつひとつ手作業で作った木製のおもちゃをプレゼントするという「ウッドスタート制度」が設けられているのだそう。

渡邉さんのお子さんもまた、このおもちゃで育ったと言います。
「幼い頃から木に触れ、森を知ることで、小国の森をより身近に感じて欲しいんです。」

実際に触らせてもらうと、すべすべとした手触りとボールが落ちるときに鳴る心地よい音。
職人さんの想いと木のぬくもりを感じられるようでした。

さらに森林組合では、2024年冬「森のおくりもの」をテーマにした絵本を制作しています。
地域の図書館や子ども施設を中心に読み聞かせ活動や森や水に関わる学習を行う団体へ無料配布しているそう。

「100部限定で制作したのですが、ぜひ読み聞かせに活用したいとたくさんの団体さんから応募がありました。私も読み聞かせの現場に行ったことがあるんですが、子どもたちも食い入るように見てくれて。やってよかったな〜って。」

町を上げて大切に守られ続けている「小国杉」。
そして小国杉の森を管理し守り、伝え続けている森林組合のみなさん。
希少さと品質の高さ、小国町の人と深い関わりがあることをひしひしと感じます。

森林のためにできること

今後はアロマ商品のラインナップを増やしていきたい、と語る渡邉さん。
「賞を取ったブレンドの香りでは、まだ商品開発ができていないので次はそこにチャレンジしたいですね!」

あらゆる方法で、森の良さ・大切さを伝えられるのも小国町だからこそできること。
森がある小国町に住み、この事業に参加しているからには、私にできる形で小国杉を広げていきたいですね。

小国町の、そしてわたしたちの暮らしを支える小国の森。
この記事読んでくださった方にも、小国杉の魅力が少しでも伝わっていれば嬉しいです。

小国町森林組合
熊本県阿蘇郡小国町宮原1802-1
HP

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