香りと旅して

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【福岡】九州の手仕事を体感できる宿・八女福島の町並み散策

香り旅のテーマは「日本各地の香り」を探すことだけではありません。その土地ならではの文化や食、場所など昔から大切にされてきた「地のもの」と触れ合い、紹介することも私たちの役割。
今回のお宿に選んだのは、九州に根付く手仕事を体感・体験できる宿Craft Inn 手 [té]。ゆったりとした時間が流れる古民家で、現代の暮らしの中に息づくクラフト文化を体感します。

はじめに

私たちが今回お世話になったCraft Inn 手 [té]を運営する株式会社UNAラボラトリーズは、九州の文化を深く探究し、世界に発信している企業です。
宿泊施設の運営だけでなく、旅行事業も行っています。

Craft Inn 手 [té]は、現代の暮らしに合わせて再編集した九州の手仕事を体感できるお宿です。私たちは、こちらのお宿に感銘を受け宿泊を即決しました。

職人の技に囲まれる空間『竹の部屋』

歴史の趣を感じる町並みが続く八女福島は、江戸〜昭和初期の伝統様式の建物がおよそ150軒ほど連なっている閑静なエリア。
その中にたたずむ旧塚本邸をリノベーションした「竹の部屋」にお邪魔します。
旧塚本邸は、もともと乾物屋、瀬戸物行、質屋などを営んでいた商家だったそう。遅くとも江戸時代末期のころには商いをしていたと考えられている、由緒ある建造物です。

ガラガラと重たい引き戸も古民家ならでは。
建物内はシーンと静まり返っていて、なんだか別の世界へタイムスリップした気分。
いそいそとチェックインを済ませると、フロントの奥へと案内されます。私たちが今回宿泊するのは「竹の部屋」。

すご〜い。なんだか木のいい匂いがする…..

静かな空間に思わず、ヒソヒソ声に。

土間づくりの入り口で靴を脱いでお部屋を案内していただきました。
まずは、和室と浴室、トイレがある1階から。
中庭からのやさしい夕方の陽が差し込むお座敷の中央で、ひときわ目立つ竹編みのローテーブル。

地元・八女の竹細工職人さんが手編みで作ったというそのテーブルは、繊細な網目がとっても綺麗で芸術的。さらにその脇には、藍色と久留米絣の模様が美しい座布団。

「ここにあるものはほとんど九州に点在している職人さんに頼んで、オリジナルで作っていただいたんです。」

八女市周辺には、竹細工の他、久留米絣、提灯、和紙、陶器に八女茶まで、筑後地方の豊かな自然資源と商人の町として栄えた歴史を背景に、職人さんがたくさん集まっているそう。

職人の技が光る綺麗な継ぎ目

九州の杉を使って地元の桶屋「松延工芸」さんで作られた木風呂は、大人2人が入っても余裕がありそうなくらい。もちろん、椅子も手桶も全て職人さんによる手作りです。

こんなお宿、2人じゃ贅沢過ぎたね….。満喫できるかな。

1泊という限られた時間のなかで、どこまで宿を満喫できるかと頭を悩ませる私たち。

「和室にある木箱の中に、八女茶体験ができるセットが入っていますので翌朝にお楽しみくださいね。」

古民家の温かな雰囲気に溶け込んだスタッフさんのやさしいお言葉。
明日の朝は絶対に早起きしよう、、そう心に決めたのでした。

提灯職人による特注のランプシェード
屋根の梁は当時のまま

続いて2階へ。
昔の梁をそのまま生かした空間に、寝室とこれまた2人ではもったいない程広々とした居間があります。ひときわ目を引く竹編みのチェアは、奥八女・星野村の職人「てんごや」さんによって作られたもの。繊細な竹細工ですが、こちらはどっしりとした出で立ちです。

夜はこちらで語り合いました

縁側に向かう障子に貼られているのは、名尾和紙。繊維の長いカジという植物の皮が原料になっており、様々なものをすき込むことができるそう。
近づいてよーく見てみると、何やら花柄の茶色い紙片が。

「改修前にこの部屋に貼られていた襖を砕いたものをすき込んでいます。当時の面影を消し去らない工夫をするのもわたしたちの役目です。」

この部屋のクッションカバーやベッドスローも襖と同じ花柄が採用されています。

襖の柄を採用したベッドカバー
新旧が交わる柱

どこを見ても素敵な空間。
あぁ、ここに泊まりにこれて本当によかった。またひとつ、素敵な宿に巡り合えたなと、改めて感じた瞬間でした。

私が特に気に入ったのはアメニティの部屋着「モンペ」。
機能的な要素はそのままに、太めのシルエット、柔らかな素材の久留米絣で作ることで、現代に馴染むようアレンジしています。

宿の部屋着がどうも苦手な私なのですが、お風呂上がりにモンペを履いてみるととっても柔らかな肌触りに感激!ウエストもゴムと紐でできているのでサイズ調整も◎
そして、太ももあたりについた深めのポケットは屈んだときにもものが落ちない!

寝ているときも気にならず、スッと安眠できました。(買っとけば良かったな….)

Craft Inn 手 [té]では、竹の部屋の他に「藍の部屋」もあり、それぞれ違ったコンセプトのお部屋が用意されています。
ここでは紹介仕切れないほど職人さんの手仕事で溢れた素敵なお部屋の詳細は、本文末尾のHPからご覧いただけます。

ドキドキの八女茶体験

木風呂を満喫してぐっすりと眠った翌朝。予定通り、早めの起床に成功!

それぞれ支度を終わらせて、いざ!八女茶体験です。
木箱の中には、お茶の煎れ方の説明書入り。普段はタイパ重視で粉茶に頼ってしまうので、この時ばかりはと真剣に読み込みます。

ぎこちない手つき…。
茶葉が開くとほんのり甘いお茶のいい香り

湯呑みをしっかり温めたら、程よく冷めたお湯を茶葉の入った急須に注いで茶葉が開くのをじっくり待つ…。そうして煎れた八女の一番茶がこちら。

御茶請けの手作りクッキーとともに

色も味わいもすっきり爽やか。少し甘さを感じる八女茶、朝の体に染み渡っていく〜

無言で飲み続けるわたしたち。
せっかくなので二番茶も煎れます。お茶の飲み比べをした経験がほとんどなかったのですが、二番茶は少し渋みが出て「これぞ日本茶」というお味に。

お茶は一番茶〜三番茶にかけてお湯の温度を変え、茶葉の風味と香りの変化を楽しむそう。
思った以上に奥が深いです。

二番茶は少し色が濃くなりました

三番茶はもっと深い味わいが楽しめるそうですが、この日は朝早くから取材が入っているため断念。
お土産に茶葉を買ったので、帰ったら自宅でじっくり楽しむとしますか。

クラフトが発展した理由

Craft Inn 手 [té]のお部屋には、自社出版の本がいくつも置いてあり、宿泊しながらクラフト文化について学ぶことができます。

UNAラボラトリーズさんによると、九州でクラフトが発展してきた理由には、熊本県の阿蘇山の噴火が大きく関係しているのでは、とのこと。
何十万年もかけて蓄積された土や石、湧水、そして杉・檜・竹などの森林資源といった土地の資源に恵まれていたこと、さらには九州最大の河川である筑後川が流通を担っていたことも影響しています。

東京・大阪といった大都市圏と適度な距離が保たれていたことで、近代化の波に完全に飲み込まれることなく、古いものが残ってきたのです。
焼き物で言えば、佐賀の唐津焼や有田焼、鹿児島の薩摩焼などが有名どころ。
織物では、福岡の久留米絣に博多織など名だたるものばかり。

UNAラボラトリーズさんが運営する九州のクラフト文化を体感できるお店「うなぎの寝床」にもお邪魔しました。

うなぎの寝床

福岡県内に4店舗を構える「うなぎの寝床」。名前の由来を伺ってみました。

「京都の町屋は、宅地の間口が狭く、奥行きが深いことから「うなぎの寝床」という言葉が生まれたと言われています。わたしたちのショップも八女の町屋が並ぶ一角に、リノベーションして開業したのでこの名前を採用しました。」

なるほど。

確かにお店ののれんをくぐると、奥まで部屋が続いています。私たちが訪れた旧寺崎邸も古民家をリノベーションした店舗で、靴を脱いで上がっていくスタイル。

竹の部屋に置いてあった「はんてん」(とっても軽くて温かい!)や職人さんの手仕事が感じられる素敵な商品がずらっと並んでいます。

地域の文化を伝えるだけでなく「その土地らしさと風景をも伝えていくこと」をコンセプトに九州を中心とした日本の地域文化を発信しています。
店内では、これまた雰囲気の素敵な店員さんが丁寧に商品について説明してくれるので購入に迷った時も安心。手仕事の歴史についても教えてくれますよ。

アウトドアブランドと老舗布団やのコラボ。欲しい。

八女福島散策

実は、予定より早めのチェックインができたので、宿のスタッフさんに地図をいただいて八女福島をぶらりと散策することに。
夕食準備の時間だったせいか、どこからともなく魚を焼く匂いが…。

秋刀魚かな〜..秋だね〜..

そんなことを話しながら女二人、ノスタルジックな世界に浸っていきます。

立派な町屋にはカフェや喫茶店、それに大きな醤油屋さんが軒を連ねています。
地元の人が利用するであろう写真屋さんや薬局、花火屋さんまで。観光地化されていない、そこに住む人々の暮らしが垣間見えます。

宿から歩くこと数分。目的地に到着。

町中に突如現れる「土橋八幡宮」。宿の方に「ぜひ行ってみるといいよ」と太鼓判をいただいた場所です。一見普通の神社のようですが、鳥居をくぐるとそこには別世界が広がっています。

神社の中になんとお店がずらりと軒を連ねています。「土橋市場」と呼ばれるこの場所は、戦後、ここ土橋周辺に散らばっていた露天(闇市)を整理するため、映画館のオーナーが土橋八幡宮に依頼してこの場所を商店街として発展させたのだそう。

スナックや飲み屋さんが多いのもその影響が大きいのかな。

まだ明るい時間だったため、ほとんどのお店がオープン前。ひっそりとした空間で、お客さんと思われるのは私たちだけです。細い路地をフラフラと歩いていると、どこからか元気な声が。

練習終わりと思われる野球少年たちが家路へと急いでいます。

すれ違いざまに「ちわー!!!」「ちわーッス!!」と、元気な声で挨拶をしてくれます。
(しかもみんな帽子を脱いで一礼まで…)

彼らにとっては当たり前だったのかもしれないけれど、都会に慣れてしまったせいか、このワンシーンに心がポッと温かくなりなんだか涙が出てきそうでした。
野球少年たちに別れを告げ、さらに奥へ進むとまた子どもたちの笑い声。そして何やらお腹の空く香ばしい香り…。

飲み屋だらけなのに子どもの声….?
不思議に思って声の出どころを探してみると、ありました。

市場の端にあるたこ焼き屋さん。中を覗くとオーナーと思わしき男性とテーブルを囲む小学生たち。みんなたこ焼きを頬張りながら談笑している様子。

外看板を見ると定番メニューのたこ焼き500円ほど。学生割は100円引き。
この時代にワンコインでお釣りがくるなんて。

こんな場所が近所にあったら絶対通ってたよな〜。と、子どもたちを心の中で羨むアラサー・アラフォー編集部。

しばらくすると、あたりは暗くなり、市場の中もポツポツと明かりが灯り開店準備が始まっていました。
1時間ほどでしたが、ノスタルジックな町並みで、ここに暮らす人々とその温かさに触れた記憶に残る散策となりました。

今回お世話になったところ
Craft Inn 手 [té]
福岡県八女市本町120番地1
HP

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