香りと旅して

香りと旅して

【北海道】清涼感に包まれる圧巻の和薄荷蒸留

オホーツク海の内陸にある北海道滝上町を訪れた香り旅編集部。収穫前の畑取材に引き続き、蒸留現場も取材します。なんと今回は取材だけでなく、実際に蒸留のお手伝いもさせていただくことができました。

熱気を帯びた静かなる蒸留所と大きな2つの窯

私たちが蒸留所を訪れたのはAM10:00。
駐車場から車を降りるや否や、風に乗ってやってきたのは爽やかな薄荷の香り。
朝のぼんやりとしていた体がキリッと目覚めるような感覚。

「よく来たね!みんなは次の蒸留用の薄荷を農園に取りに行っているよ。」
出迎えてくれたのは、初めましての佐々木さん。

藤村さん、瀬川さんとともに(株)滝上町和ハッカ・ラボを盛り上げている薄荷農家さんです。
ご挨拶を済ませ、しばらく待っていると1台の青いトラックがやってきました。
荷台は”茶色の何か”で今にも落ちそう。

先月ぶりですね!
トラックから降りてきたのは、前回もお世話になったラボ代表の藤村さん。

和薄荷は、収穫から蒸留するまでに「乾燥」という工程が必要不可欠。
葉っぱ、花、茎もまとめて水蒸気蒸留で和薄荷精油を採取するのですが、原料をしっかりと乾燥させることでより多くの精油が採れるのだそう。
トラックの荷台には「乾燥させた和薄荷の束」が山のように積まれていました。

「さて!始めますか。」

藤村さんの合図とともに次々と人が集まってきます。
ラボメンバーの瀬川さんご夫婦、佐々木さんご夫婦、地域おこし協力隊のみなさん、藤村さんの娘さん(海外留学から帰省中!)などなど、気がつけば15名ほどが大集合。

圧倒される私たちを他所に、みなさんは手際良く蒸留の準備を進めます。
まずは先ほどまで蒸留が行われていた窯の蓋を機械を使って開けていく作業から。

ドキドキしながら見守っていると、、

蓋が開くと薄荷の香りがさらに強くなります

大量の蒸気とともに薄荷の香りが蒸留所いっぱいに広がります。
蒸留が終わった薄荷をクレーンで持ち上げるため、機械とつなぎ合わせる作業も一苦労。

熱気ムンムンの中、機械を使って持ち上げるとその全貌が見えてきました。

クレーンで吊るされた薄荷の塊は、蒸気をまとった何かの生き物のよう。
その存在感に圧倒され、パシャパシャとシャッターを切っていきます。

蒸留されたての和薄荷精油も見せていただくと、黄色味がかった透き通った色をしています。佐々木さんは、精油と蒸留水の絶妙な境目を見分けて圧力計を操作していきます。

真剣そのもの

後ろでは、着々と次の蒸留準備が進んでいます。
トラックが蒸留所へ入ってくるとあっという間に3名ほどが山積みの薄荷の上へ。

地上では、2つ並んだ大きな窯の一方にハシゴが降ろされ、藤村さんと瀬川さんが深〜い窯の下へと降りていきます。

「この窯の深さは大体2.5mくらいかな?下に人が入って薄荷を踏み固めながらどんどん入れていくんだよ。これからもっと迫力が出てくるから少し離れて見ているといいよ。」

お邪魔にならぬようカメラを構えていると

トラックの荷台や地上などあらゆる方向から次から次へと薄荷の束が窯の中に放り込まれていきます。
休む暇なく薄荷が窯に入り、あっという間に藤村さん、瀬川さんの姿が地上へ見えてきました。

窯に入ると姿が見えなくなるんです

1回の蒸留でおよそ150束前後が窯に入るといいます。(季節によって様々)それを1日に6〜7回、4,5日間かけて全ての薄荷を蒸留させていくそう。

薄荷を育てるのも収穫も、蒸留も全部体力勝負なんだ….
一瞬たりとも見逃したくない!そんな一心で、気がついたらカメラのシャッターを次々と押していました。

窯から溢れるほどの薄荷をようやく入れ終えると、いよいよ蒸留開始。

丁寧かつ素早い作業

「さて、今年は何キロ取れるかな」

ゴゴゴゴゴ…

クレーンで窯の蓋がゆっくりと閉じられていく様子を藤村さんたちは、熱い眼差しで静かに見守っていました。

畑の循環

窯の蓋が閉じたのも束の間、

「さぁ畑へ向かいましょう!2人もトラックに乗って!」

藤村さんに促されるまま私たちもカメラを持ったまま同乗し、ラボが管理する畑へと向かいます。

蒸留し終えた薄荷の塊を荷台に乗せて走ること10分。8月にもお邪魔したラボの薄荷畑に到着。

「蒸留し終わった薄荷は畑全体に撒いて来年の肥料にするんだよ。捨てるところはひとつもないからね。」

待ってましたと言わんばかりに気合が入る私たち。
この時のために張り切って上下ジャージで取材に望んでいました。

カメラを置き、いざ荷台へ乗り込むと、いまだ熱気ムンムンの薄荷の塊が待ち構えていました。
2.5mの窯に押し込まれた薄荷は、蒸留が終わるとおよそ1.7mほどに小さくなっています。

「よろしくお願いしまーす!!!」

トラックは畑の中を何往復もします

藤村さんの娘さんの合図でトラックはゆっくりと薄荷畑を走り始めます。
昔から薄荷蒸留を手伝っているそう。手慣れた手つきで薄荷の塊に挑んでいきます。

「下からめくるようにして少しずつ剥がしていくとやりやすいですよ。」

教えてもらった通りにやってみるけどなかなかうまく剥がれない。

む。これは元運動部、力の見せ所だ!!

腰を落として全身で一気に持ち上げるとゴソッと表面が剥がれてゆきました。
それを向かいにいた藤村さんがほぐして畑へ撒いていきます。

周囲の景色を見る余裕もなく、ひたすらに薄荷の塊と戦い続けること数十分…

薄荷の塊を全て解体し終える頃には、うっすらと額に汗をかくほどに。

薄荷の蒸気とも闘っています

全身の火照っているはずなのに、手足はスーッとした清涼感。
ジャージの袖を嗅いでみると、薄荷のやさしい香りが私にも移っていました。

なんだか不思議な感覚です。

「次は、向こうで薄荷の束をトラックに積む作業をやっているから手伝いに行こうか。こんなに動いて大丈夫?」
藤村さんのお心遣いをよそに

はい!!任せてください!とやる気モードの私たち。

体育会系ばりの返事をかまし、小走りで次の作業に合流します。

1年の集大成

蒸留を待つ薄荷たち

9月上旬に行われる収穫は農家さんをはじめ、アルバイトや地域おこし協力隊など総出で行われるとのこと。
6ヘクタールほどある薄荷農園のすべてを手作業で収穫するには、いくつ手があっても足りないくらいなんだとか。

「収穫の日はね、風が強かったり雨が降っていると油成分の結晶が落ちてしまうから全然量が取れないんだよ。薄荷を含むハーブ系の植物は、乾燥した晴れの日の明け方〜午前中に油分を溜め込む習性があってね。その時を狙って一気に収穫するんだ。息ができないくらい、香りが強いんだけど。」

そんな多くの人が関わって収穫された薄荷の束。感謝の気持ちを込めながら両手で抱えあげた薄荷の束はパリパリに乾燥しているのに、結構な重量感。

はじめはテンポよく積んでいきましたが、次第に荷台の薄荷は山積みに。
手が届かない高さになるとここからは”投げ入れ方式”へ。

結構コツがいるんです

皆さんの真似をしてホイッと投げるとギリギリ成功。
次から次へと放り投げ気がつけばはるか高くまで積み上がっていました。

どんな眺めなんだろう…

「蒸留所へ戻ろう!そろそろさっきのが出来上がっている頃だよ。」

畑に一旦別れを告げ、爽快感が増した蒸留所へ新たな和薄荷の山を運んでいきます。

ここからまた1年

この秋の蒸留を終えると、来年に向けてまた新たな1年が始まります。

畑に機械を入れて土を掘り起こすと、地下5cmほどに縦横無尽に生えている薄荷の根っこが程よく分裂し、そこから新たな芽が生えてくるそう。

「薄荷の成長にはこの土起こしが結構重要なんだ。うまくやらないと薄荷の成長にムラができたり、きれいに生え揃わないからね。ちょっとしたコツってもんが必要なんだよ。」

瀬川さんは畑を眺めながら教えてくれました。
ここ滝上町は和薄荷だけでなく、紫蘇の栽培・蒸留も盛んに行われており9月はどこも大忙しの様子。
なんと瀬川さん、和薄荷以外にも小麦やかぼちゃ、じゃがいもなども生産しているそうで、収穫、蒸留、種まき、土起こしなど休む暇がないほど。

「周りの農家がみーんな辞めちまってね。どんどん引き受けてたらこんなに広くなっちゃったよ(笑)。まあ、いろんな人が手伝いに来てくれるから楽しいけどね。」

「雪が溶けたあとの4月ごろから9月の収穫までは、天候に左右されて思うように仕事が捗らないし結構過酷だけど、この蒸留が1年の集大成と思うと頑張れるね。きっと他の農家もそう思って続けてるんじゃないかな。いいチームでできていると思うよ。」

瀬川さんは、目を細めてそう言うと蒸留の仲間の元へと戻っていきました。

おわりに

今回、2日間に渡って取材・お手伝いをさせていただきました。
携わっているみなさんの明るさやひたむきさ、そして息のあった作業風景を目の当たりにして感じたのは「感謝」です。
1年のうちのたった2日間でしたが、その裏側には想像をはるかに超えるような農作業の毎日があったからこその蒸留なのだと改めて気づくことができました。

薄荷の爽やかな香りに包まれっぱなしだった2日間。
目も鼻もシャキッとして、全身で和薄荷を感じられた貴重な体験でした。
滝上町では毎年この時期に「和薄荷見学蒸留ツアー」も行われているそうなので、気になる方はぜひ滝上町HPを調べてみてくださいね。

ツアーの皆さんも窯に入って薄荷をふみふみ

お忙しい中、お時間をいただいた(株)滝上町和ハッカ・ラボのみなさん本当にありがとうございました。来年はぜひ収穫もお手伝いしに伺いたいと思います!

(株)滝上町和ハッカ・ラボ
北海道紋別郡滝上町字滝ノ上原野21線東7番地
HP

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