香りと旅して

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【北海道】日本一を誇る滝上の和薄荷

夏の日差しが残る8月下旬。北海道旭川空港から広大な景色を眺め車を走らせること約2時間半。オホーツク海側の内陸に位置する滝上町(たきのうえ)を訪れた香り旅編集部は、滝上町和薄荷を栽培し、全国へ広げる活動を行う(株)滝上町和ハッカ・ラボさんを訪れました。

爽やかな風が吹き抜ける和薄荷農園

「香りの里たきのうえ」で私たちを待ってくれていたのは、(株)滝上町和ハッカ・ラボの代表で薄荷栽培も手がける藤村さん。

こんな遠いところまでよくお越しくださいました!
この滝上町はほとんど観光客がこないもんでね〜

こんがりと日焼けした肌にやさしい笑顔で出迎えられ、長距離運転の疲れも飛んでいきます。
ご挨拶を済ませ早速、和薄荷農園へ案内してもらうことに。

この日は少々風の強い日。
農園の前に立っただけでスーッと爽やかな香りが鼻の奥を通り抜けていきます。

もう薄荷の香りがする!!すごい!!

驚きを隠せない私たちは、手に持っていたカメラでバシバシと写真を撮っていきます。

「ここの農園は去年から引き継いで僕が管理しているんだけど、その前は昔からの農家さんがやられていたんだよ。」

滝上町に魅せられて

「実はね、元々僕も東京生まれなんですよ。幼いときに参加したキャンプツアーで訪れたのがこの滝上町だったんだ。その時の感動というか、空気感がずーっと忘れられなくてね。20年ほど前にこっちに移り住んでしまったんだよ。」

都会から離れ、この地で暮らすには大変苦労したそう。
とあることがきっかけで和薄荷と出会い、今では栽培農家として毎日奮闘しているそうです。

「昔はこの滝上町でもたくさんの和薄荷農家さんがいたんだけどね。和薄荷って正直あまりお金にならない植物なんだよ。それでいて手間もかかる。だから軒並み農家をやめる人が増えてしまって。いま残っている和薄荷農園は6件。全体面積で言うと6ヘクタールしかないんだよ。」

和薄荷の栽培は、雑草と虫との戦い、という藤村さん。

「薄荷は虫除けとして知られているけど、薄荷そのものを好む虫がいてね。それを見つけ次第取っていかなきゃ葉が全部食べられてしまうんだ。」

そう話している間にも

ほらいた!!!

目にも止まらぬ速さで藤村さんは鉛色に輝く小さなハッカハムシを見せてくれました。
(ハッカハムシは、農園では害虫ですが昆虫マニアの間では人気があるそう。)
こんな小さな虫を会話しながら見つけてしまう藤村さん、あっぱれです。

畑の中へ進むと爽やかな香りは、さらに強くなっていきます。
藤村さんをマネしてしゃがみ込んでみると、全身がスーッとした清涼感で包まれるような感覚に。

薄荷に囲まれるなんて人生初の経験!
正直、これほどまでに清涼感があるとは思ってもみなかったので、とても感動的な体験でした。

続いては、同じ(株)滝上町和ハッカ・ラボの「ファーム瀬川」さんに伺います。

日本でただ一人の生産者

車で数分走らせたところにあるファーム瀬川さんは、およそ3.5ヘクタールを有するなだらかな傾斜のある農園。
ここを管理されている瀬川さんは、代々和薄荷農園としてこの地で暮らしてきた生粋の道産子です。

よう来たな〜

笑顔で迎えてくれた瀬川さんは、雑草とり作業の休憩中。
さっきまであんなに晴れていた天気が一変。瀬川さんの農園につくやいなや周囲が見えないほどのスコール到来。

「今年は、ものすごく暑かったりこんなふうに急に土砂降りになったり、変な天気が続いたから作業が全然捗らなくてよ。奥の方なんかまだまだだから、あんまり見せたくない場所もあるんだよな〜」

トラクターや除草剤には頼らず、ほとんど手作業で管理・収穫を行うため、途方もない時間を要するといいます。
雑草を取り除くことで、光が土まで届きよりびっしりと薄荷を生やすことができるそう。

薄荷の生え方にとって大切なのは、「秋の土を耕すテクニック」と「春先の雪解け」だと瀬川さんは教えてくれました。

滝上町にある和薄荷農園面積の半分を占めるファーム瀬川では、「北斗」「JM23号」という2種類の和薄荷を栽培しています。
特に「JM23号」という品種は、日本で栽培しているのは瀬川さんただ一人。

「この北見地域で薄荷が盛んに作られていた時に遠軽に開発センターがあってね。そこで開発された最後の品種なんだよ。23番目の品種だからJapanese Mint 23号ってわけ。
これを世の中に広めようとした時に、立て続けにみーんな農家を辞めちまってね。薄荷は割に合わないもんだから。」
瀬川さんはこの品種を絶やさずに今日まで守り続けているのです。

滝上町の和薄荷

ビニールハウスでしばらく雨宿りをさせてもらっている間にも、いろいろなお話を聞かせてくれる瀬川さんに編集部たちは興味津々。

「普段は、俺と妻とアルバイトの3人で管理してるんだけどよ。4月からずーっと草取りばっかりの作業で全然会話が盛り上がらないのよ。たまにお手伝いさんが来てくれるんだけど、その時はすごく捗るし、何より楽しい(笑)」

ファーム瀬川でしか出会えないJM23号とは一体どんな香りなのだろうか….

ふと外を見ると激しかった雨も止み、うっすらと日が差しています。

今なら行けるな。
瀬川さんと藤村さんの後を追い、いよいよJM23号とご対面のとき。

「茎が黒くて葉っぱがツヤツヤしているのがJM23だよ。北斗はスッキリした感じだからほんと夏のイメージなんだよね。それと比べてこいつは、ちょっと甘いというか。精油はお菓子やお酒にも使われているくらいだから。結構評判いいんだよ。」

どれどれ失礼して葉っぱをひとつまみ。

若い芽を少し触っただけなのに指がスーッと爽やかな香り!
確かに瀬川さんの言う通り、先ほどさばいでぃ農園さんで嗅いだ薄荷よりどことなくマイルドな印象です。

「葉っぱのツヤは油分が多い証拠だよ。今年は少し干ばつ状態が続いたからな。年によって成長も油の量も全然違う。面白いもんだよ。今年はどんなものが採れるかね。」

和薄荷が希少な理由

1年間休むことなく広大な和薄荷畑の手入れを続け、晩夏に収穫。そして、秋の蒸留は1年の集大成とも言える一番大事な行事なのだそう。

「収穫はね、油が一番のっている状態の時に一気にやっちゃうんだ。その時期を逃すと葉っぱ自体変色して落ちてダメになっちゃうんだ。油の量も全然違うよ。お手伝いがきて5人くらいでやってるけど気が遠くなるんだわ。」

「蒸留のときもね、乾燥させた和薄荷を畑からトラックに積んで窯に入れる、それを蒸留している間にまた畑に行ってをやらないと間に合わないくらいめちゃくちゃ忙しいんだ。3〜4日かけて一気にやっちゃうんだ。いくら一生懸命やってても人の手は足りないよなぁ。」

これから私たちには想像もできないほどの作業が待ち受けているとは。

でも、そうとなれば答えはひとつ。

9月下旬から始まる蒸留になんと私たちも参加することが決定したのでした。

ここファーム瀬川で採れる希少な精油たちは、全国多種多様な企業で使用されているそう。
中でも甘みの強いJM23号は、農園からほど近くのハーブガーデン内にてソフトクリームとして販売されているとのこと。

(なんだって…?それはぜひ食べてみたい。)

「時間が大丈夫ならこの後寄ってみるといいよ。俺はまだ1回も食べたことないんだけどね。(笑)」
ファーム瀬川さんの取材を終えた私たちは、藤村さんの案内のもと最後にハーブガーデンでJM23号薄荷ソフトを堪能してきました。

これは驚きの美味しさです。皆さんも訪れた際には是非。

蒸留の様子は次の記事をお待ちください。

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