【北海道】富良野で育まれた豊潤ワイン
北の大地 北海道を訪れた香り旅編集部。今回はいつもの相方はおやすみ。せっかく北海道に行ったのなら!と車を走らせて富良野市にある「ふらのワイン工房」さんを取材しました。
観光業としてのワイン
私たちが尋ねたのはお昼過ぎの14:00。
夏の気配がまだまだ残り、強烈な日差しが照り付けてきます。
「こんにちは〜」
お待ち合わせしていた穐元(あきもと)さんが出迎えてくれました。
昨年50周年という節目を迎えたふらのワイン工房は、地元原料、醸造、販売という一貫体制の工場。シーズンになると、美味しいワインがたくさん醸造されます。
無料の工場見学やワインの試飲もでき、気に入ったものは売店でも購入が可能。
取材ということで、今回は特別に穐元さんがガイドをしてくれます。
「実はここ元々市役所だったんですよ。」
え?市役所?
穐元さんのご紹介に思わず顔を見合わせる私たち。
「北海道池田町の自治体が1972年からクラフトワインの醸造を始めたのがきっかけで、富良野は2番目になります。ここも自治体が管理しているので、自分は市役所の職員として働いています。富良野では、ワインも観光の一部なんですが、他の自治体にはない部署ですよね(笑)」
富良野市では、観光課の一環として「ぶどう果樹研究所」という部署があり、それぞれ製造課・業務課に分かれて職員が働いているのだそう。
なんとも富良野らしい。そしてちょっと羨ましい。。
「富良野は1日の寒暖差がかなり大きく、盆地ということもあってワインの原料であるぶどうの栽培に適しているんですよ。年間を通しての寒暖差も結構重要で、夏は30℃近く冬は−30℃になることもあります。また、土壌も砂利が多いのもぶどうにとっては好条件ですね。」
現在、こちらでは「セイベル」という主要品種を使いつつ、およそ30種類ほどのワインを製造しているそう。
「それでは早速ワインの保管庫へご案内します。」
穐元さんの後に続き、急な階段をゆっくりと降りていくと半分ほどのところから空気がガラッと変わりました。
「涼しい〜!」
ワインのタイムカプセル
感動しながら階段を降りた先に現れたのは、大きな本棚のような棚が数台。その中にはワインボトルがずらっと並べられています。
8畳ほどの広さでしたが、どこを見渡してもワインだらけ。そして、ほんのりぶどうのいい香りが部屋中に漂っています。
「ここには2004年にボトル詰めされたワインが保管されています。20年・30年・50年・100年と熟成期間を分けています。来年には20年ものを開封する式典を予定しているんですよ。100年後のは誰も見ることができないですけどね。」
ここの室温は夏場で15〜18℃ほど。しかし、特に空調を効かせてないので自然とこの温度が保たれているそう。さすが北海道。
「ワインはものによって熟成期間が長かったり、短かったりいろいろあります。品質に合わせて見極めたり、作りたいワインを想像しながら醸造家が熟成期間を見定めています。」
白ワインはフレッシュ感・フルーティーさを残すため、熟成期間は短めに設定されるといいます。逆に赤ワインは奥深い味わいや風味を引き出すため、熟成期間は長め。
来年開封する20年もののワイン、一体どんな味がするのだろうか。普段あまりワインを飲まない私ですが、とても気になる所存。
続いては、発酵のタンクを見させていただくことに。
場所を移動すると、さらにワインの香りが濃くなってきました。
「すごい!すごい!ワインの香り!!」
興奮気味に近づくと、発酵真っ最中のタンクを見せてくれました。
「このタンクはおよそ11.5トンのワインが入ります。この工房で作られているワイン瓶が720mL容量なので、瓶で換算すると約1万6,000本ほどになりますね。」
工房でしか見ることのできない発酵中のワインはふんわりとぶどうの甘さが残り、発酵のコクが混ざったようないい香り。
「発酵したぶどうの液に酵母を入れると、酵母がぶどうの糖を分解してアルコールが発生します。そのため、糖度が高いほどアルコール度数も上がっていきます。糖度の高い果物は他にもあるんですが、アルコール度数が高すぎてしまって醸造家は頭を悩ませてしまうんです。
そういった意味でもぶどうはワインにぴったりだったのかもしれません。」
なるほど。
富良野という土地柄、そして酵母の発酵、いろいろな要素が相まって富良野でワイン作りが盛んに行われてきたのか。
良い香りに包まれすぎたせいか、ふつふつとワイン欲が湧いてきました。
圧巻のワイン樽
続いては特別にワイン樽の保管庫に潜入です。
中に入るとこれまたひんやり&ワインの甘いもったりとした香りが広がっていました。
「醸造家がワインを作る上で特にこだわりを持っているひとつが、この樽なんです。うちの製造責任者も樽選びは妥協を許しません。10社以上のいろんな樽を見極めて現在3社に絞って仕入れています。」
「ワイン工房で使われている樽は、フレンチオーク/アメリカンオークの2種。樽になる前に一度”焼き”の工程が入るのですが、この焼き具合でワインの香りがものすごく変化します。そのため、品種によって樽の焼き具合をその都度注文しています。」
焼きがライトなものはバニラ系、ミディアムではチョコやココア、しっかり焼きの入ったヘビーではカラメルのような香りがワインにうつるのだそう。
“どんな香りのワインにしたいか”をイメージしながら樽の焼き具合、熟成期間を調節していくため、醸造家の腕の見せどころなんだとか。
ワインの香りには「樽の素材」「焼き具合」「ぶどうの品種」が重要です。
これらの組み合わせと熟成期間によって繊細なワインの香りが作り出されています。
ふと横たわっているワインに目をやると、栓をしてある部分から赤ワインが滲み出ていました。
「ここからワインを注いで熟成させるのですが、どうしても満タンにはできないんですよ。ワインは空気に触れると酸化してしまうので溢れるまで注いでから栓をします。樽にも小さな穴や空気孔があるので少しずつ滲み出てしまうことがあるので、毎週継ぎ足しを行っています。」
この滲み出た部分は「天使の分け前」と呼ばれ、北海道出身の有名バンドの曲名にもなっているそうですよ。
ふらのワインの魅力
穐元さんにふらのワインの魅力を聞いてみると
「なんと言っても100%富良野で作られたってところですかね。地元農家さんの協力もあって毎年良いワインができています。僕はお酒が飲めないんですが、製造過程も知っているので自信を持って勧められますね。」と、嬉しそうに教えてくれました。
ワイン製造が一番盛り上がる秋は、工房全体がぶどうの芳醇な香りに包まれるそう。
さらにこの時期は全国各地で「北海道展」が催されるため、1年で一番活況を迎える時期です。
「収穫直後のぶどう由来のフレッシュな香りから発酵、熟成が進むにつれて樽の香りも相まってどんどんと深みのある香りに変化していくんですよ。今年のワインの出来はどうかな、とみんなでワクワクしながら待つのがすきですね。」
後日、今年の収穫の様子をお写真でいただきました。
見ているだけでもぶどうの香りが漂ってきそう….。
これだけでもう美味しそうです。
工場見学の最後には、眼下に広がるふらの盆地と十勝岳連峰を眺めながらふらのワインの試飲もできますよ。運転手のわたし、お酒の苦手なAちゃんに、穐元さんは100%ふらの産ぶどうジュースを振る舞ってくれました。
「甘い!!ちょっと皮も入っていて渋みもあって染みるぅ…!」
冷たくて程よい甘さ&酸味のフレッシュなぶどうジュースは、残暑でくたくたに疲れた私たちの体に染み渡ります。
最後に建物の外にあるぶどう畑へも行かせていただきました。一般的にぶどう畑といって想像するのは、棚のように木が生え頭上にぶどうの実がなっているいわゆる「ぶどう狩り」スタイル。
しかし、ここのぶどう畑は木が一列に並んでおり、手の届く高さにぶどうの房がなっています。
「ゆるやかな傾斜で育てた方がワインに適した良いぶどうができやすいんです。北海道では、冷え込む日も多いので均等に日光が当たるように縦に並べて育てています。日光が当たる時間が長ければ長いほど十分に光合成ができ、糖度が高くなるんですよ。」
煌煌と照らされたぶどうの実は今にもはちきれそうなくらいぷっくりと育っていました。
収穫の時期が楽しみだな〜
収穫直前にもかかわらず取材を受けてくださった穐元さん本当にありがとうございました!
今回は運転もあり、この場では飲めませんでしたが空港でしっかりお土産として買わせていただきました。
今回お世話になったところ
ふらのワイン/富良野ぶどう果樹研究所
北海道富良野市清水山
HP