【高知県】想いを紡ぎ、未来につなげる
高知県四万十の山あいにあるエコロギー四万十さんを訪れた、今回の”香り旅”。
日本一の収穫量を誇るゆずをはじめ、地元の特産品で精油づくりをしている工場で、工場長の堀川さん、そして営業の小野川さんにお話を伺います。
前社長の想いを受け継いで
この日は、今季初のゆず蒸留の真っ最中。
「機械音が大きくて聞き取りにくいでしょ。」
とやさしく気遣ってくれた工場長の堀川さん。
場所を移動してインタビューにも答えてくださいました。
「元々うちは、地域資源を利用したエコ事業をやっていました。
その一環で前社長である田邊憲一社長が精油事業に乗り出したんですよ。」
整備が全くなかった状況での精油事業に、はじめは戸惑いを隠せなかったという堀川さん。
当時の従業員もなかなか理解ができなかったといいます。
それでも、精力的に活動する田邊前社長の活動を見るうちに、自身も本格的に精油事業に携わろうと決意したそう。
「ここは、ゆずやしょうがの生産量が日本一。
ヒノキの間伐材もたくさん出るけど、使わない部分はすべて捨てられていました。
そこを田邊前社長は見逃さなかったわけです。」
大量に捨てられていく高知の名産品たち。
どうにかして廃棄量を減らし、地域貢献につなげたい。
そんな一心で、田邊前社長と二人三脚で進めてきた精油事業。
四万十を中心に高知のあらゆる農家さんや農協に足を運び、仕入れ先を探したと言います。
「地道な活動を続けていくうちに、地元のアロマ関係の事業者さんや農家さんと少しずつつながりを持てるようになりましたね。」
社長が去った後もその想いを引き継ぎ、足を止めることなく走り続けている堀川さん。
会社が軌道にのるまで約10年もかかったよ、と照れ臭そうに教えてくれました。
立ち上げから現在に至るまで工場のあゆみを見てきた堀川さんに、これから挑戦してみたいことについてもお伺いしました。
「今後は、”花の香り”もやってみたいかな。
前社長が四万十町を「花の町」にしようとしていたので。
嬉しいことに花の精油の問い合わせももらうけど、今はゆずやしょうがの生産が多いから、現状維持ですかね。」
お話を聞きながらふと周りに目をやると、工場の片隅にひっそりとたたずむガラス製の蒸留機が1台。
大きな窯で大量に生産している現場で、光に照らされてひときわ存在感を放っています。
何に使うのかと恐縮ながらお聞きすると、なんと、前社長が実際に精油を作る時に使用していたものだそう。
「新しい精油を作るときは、最初にあの蒸留機で実験をするんですよ。
時間や水の量を細かく計算して、ちゃんと蒸留できるかどうか調べます。」
1時間おきに蒸留の様子をチェック、気温や湿度によってどのように変わるかなどを見ていくと言います。
想像しただけでも根気のいる作業。研究熱心な堀川さん。
凄すぎます。
前社長の想いを受け継ぎ、四万十の恵みをを大切に守り続けていきたい。
やさしい表情の中に、熱い想いが伝わってきました。
特別な窯
エコロギーさんには、とっても大切に使い続けている”特別な窯”が存在します。
それは、超音波を利用した「超音波印加型減圧水蒸気蒸留法」が可能な窯。
この世に1台しかない代物です。
これもまた、田邊前社長が地域の育成研究として、高知大学との共同開発によりこの技術をイチから作り上げたといいます。
そんな貴重で大切な窯。
事前に調べていた時からとても気になっていたことを堀川さんに伝えると、快く案内してくれました。
「超音波を動かす機械も、この窯もここにしかない。
故障の時や日々のメンテナンスもちょっと気を使いますね。しかも、電気代が高い高い。
頻繁には動かせないんです。」
そう言いながら堀川さんは、重たい窯の蓋を開けて中まで丁寧に見せてくれました。
窯の中は、企業秘密。
超音波を当てることによって、精油の原料を細かく分離することができるので、従来の水蒸気蒸留と比べ精油成分を取り出しやすくしているのだそう。
この日は稼働していませんでしたが、ゆずの皮を使った精油づくりが行われています。
超音波式で採れたゆず精油は、「夢音香(ゆめおとか)」というブランドで販売中。
一般的な水蒸気蒸留で採れた精油に比べ、よりマイルドな香り立ちとのこと。
これはぜひ嗅ぎ比べてみたい逸品です。
エコの輪を発信し続ける
続いて、小野川さんにもお話を伺います。
普段は地域の農家さんや農協の方々と接することが多いという小野川さん。
「今、この会社が一番困っていることは、蒸溜が終わったゆずのペーストの処理ですね。
ゆずの皮は酸がものすごく強いので、処理方法には結構注意しなきゃいけないことが多くて。」
多い時では、年間100〜200トンものゆずの皮を処理することもあるというエコロギーさん。
現在は、ペーストを固体と液体に分離した後、水分は蒸留後のヒノキチップを燃やして蒸発。固体は、産業廃棄物として処理するしか方法がないそう。
ひと昔前は、ゆずの皮を山や川にそのまま捨てるのが県内で主流だったそうですが、住民の頭を悩ませたのはゆずの皮に含まれる「酸」。
強い酸は木々を枯らし、川の水を赤褐色にするほど。
畑の土と混ぜて堆肥を作る実験も発酵がうまくいかず、堆肥としての活用法も絶たれてしまったそうです。
「会社の理念にエコを掲げている以上、今の方法を続けていくのは違うと思っています。
ゆずの皮も絶対に何かに活用できるはず。」
そんな思いから、なんと現在では「ゆずの皮の乾燥処理」を地域企業とともに開発・研究をしているそうです。
「この乾燥処理技術が開発できれば、エコロギーが掲げている自然循環の輪っかが完成するんです。
これができてこそ、エコロギーという社名にも今よりもっと自信を持てるし、精油を作っています!と胸を張って言えるかな〜。」
エコロギーさんは、会社自体が研究熱心。
これも前社長の教えなのでしょうか。
「乾燥技術が完成したらうちだけじゃなくて、柑橘の残渣処理に困っている四国の農家さんや企業にも広げたいんですよ。
高知だけでなく四国全体できっと柑橘の酸には悩まされているはず。
そんな状況を変えていきたい。」
エコロギーからエコロジーを発信・拡散していきたいと展望を語ってくれました。
小瓶に詰められた精油、そして生産に携わる方々の想いや様々な背景。
この中には、色んなものが凝縮されているのだと気づかせてくれた、高知の”香り旅”。
まだまだ学ぶことが多いけど、2回目にして取材の味を占めてきた編集部。
これから先どんな出会いが待っているか、ドキドキワクワクが止まりません。
取材を快く引き受けてくださった堀川さん、小野川さん、作業中にも関わらず対応してくださった従業員のみなさん。
本当にありがとうございました!
エコロギー四万十
高知県高岡郡四万十町希ノ川57
0880-29-4025
HP