香りと旅して

香りと旅して

【高知県】ゆず・ヒノキの精油づくり

日本各地の香りと出会う “ 香り旅 ”。
第二弾は、ゆずの収穫が最盛期を迎えた高知県・四万十へ。
清流 四万十川が育む豊かな自然とそこに住む人々の暮らし・発展を支えるエコロギー四万十さんを訪ねます。

大自然に圧倒。

高知龍馬空港から車で約2時間。
高速を降り、四万十川沿いののどかな山道をしばらく進むとエコロギーさんが見えてきます。
山あいに広がる敷地に大きな小屋が3つに数台のフォークリフト、そして木材が山積みに。
ひとつは、煙のようなものがもうもうと出ています。

事前に準備をしてきたとはいえ、いきなり想像をはるかに上回る規模の大きさに圧倒される編集部。

インタビュアーとしては初取材のわたし。
朝からずっとソワソワしていた気持ちもピークに到達。

車を停めると、今回アテンドしてくださる小野川さんと工場長の堀川さんが出迎えてくれました。

「おはようございます!道に迷いませんでしたか?森の中だからわかりにくかったでしょう。」と明るいお出迎え。

こちらでは、地元高知県のゆずやしょうが、ヒノキをはじめ、約8数種類の精油を蒸留しています。

そしてこの日は、今季初となるゆずの蒸留が行われるとのこと。
こんな貴重な日に立ち会えるなんて!感謝感激。期待が一層高まります。

四万十ゆずの精油ができるまで

山盛りのゆずの皮に驚き!

大きな機械に囲まれた蒸留所。

さっそく目に飛び込んできたのは、てんこ盛りのゆずの皮たち。
大量のゆずを目の当たりに

「わー!すごい!」

取材初っ端から子どものような反応の編集部。既に、蒸留所はゆずのいい香りが漂っています。開始早々、見るもの感じるのも全てが非日常です。

「あー、とっても贅沢な空間。」

無意識に、深呼吸を何度もしている自分に気がつきました。

このゆずの皮は、すべて四万十産。
皮の黄色い部分だけを使うことで、より純度の高いオイルが採れるといいます。

「ここにワタや種などが混ざると、オイルが紫色に変色したり、成分や香りにも大きく影響してくるから、蒸留前の下処理はめっちゃ大切な工程なんですよ。」

小野川さんは、手にとってゆずの皮を見せてくれました。

ペラッペラで、ほんのりと冷たくて気持ちいい。

なんとこのゆずの皮、一度に300kgも仕込むのだとか。
やはり、想像の上をいく規模感。さすが”ゆず大国高知”。

突然、ゴーッという轟音とともに、工場の真ん中に鎮座していた大きな機械が動き始めました。いよいよゆず蒸留が始まります。

この皮をどうやって蒸留させるのだろうか。

そんなことを思いながらしばらく様子を伺っていると、何やら不思議な光景が。

「ゆずの皮は、繊維を細かくするほど良質なオイルが採れるから、うちでは最初からこの方法で精油を作っています。ここまでやるのは、うちだけなんじゃないかな?」

柔らかな口調で教えてくださったのは、工場長の堀川さん。

ミンチされるゆずの皮たち
こんなにつぶつぶに
そしてペースト状へ。赤ちゃんの離乳食みたい。

上質なオイルを採るため、蒸留前にゆずの皮をすり潰す方法を取り入れているのだそう。

物凄い勢いでゆずの皮が機械に吸い込まれると、あっという間にペースト状へ。
漂っていたゆずの香りも濃さが増してきます。

ちょっと失礼してマスクを少しだけずらし、ここで再びの深呼吸。
大興奮の編集部、「最高ですね。」と思わず、心の声がもれてしまいました。

工場長の堀川さんと作業員さん。そして、前のめりな私。
これぞゆず風呂?!

大人ひとり入れるという大きな蒸留窯にペーストを送り、水蒸気蒸留で精油を抽出していきます。

ペーストが送られる大きな窯

隣では、朝一番に蒸留した精油が完成しているとのことで、そちらも見せていただくことに。

「蒸留水から精油に変わる瞬間が、一番緊張しますね。」と作業中のスタッフさん。
お邪魔にならぬよう、編集部もそのドキドキの時間を一緒に見守ります。

固唾を呑んで見守ります。まだかな〜
そろそろかな?タイミングを見計らうには経験が必要。

「1回の蒸留にかかる時間は、大体3時間くらいかな。多いときには、これを1日2〜3回。
冬は寒く夏は暑いので、見た目以上に過酷な現場です。」

「皮と水合わせて600kg仕込んでも、採れる精油はたったの2kg。
しょうがは、もっと少なくてたったの400gだけ。びっくりでしょ。

割に合わない仕事だけど、地元四万十の名産品の魅力を多くの人に届けたい。
その想いで今も蒸留を続けています。やめるわけにはいかないんですよ(笑)。」

朝イチの蒸留から採れたゆずの精油。
精油の中にわずかに残っている蒸留水は、手作業で濾過されます。

大規模な蒸留を初めて目の当たりにした編集部は、興奮をおさえきれずあらゆる角度から写真をパシャリ。

蒸留中のスタッフさんも手を止めて、「撮れましたか?」とやさしい心遣い。
お忙しいのに、ありがとうございます。

“繊細な香り”の裏側

全部で3機の大きな蒸留窯を完備しており、柑橘専用、樹木専用と香りごとに使い分けているのだそう。

隣のエリアでは、朝から「ヒノキ」を蒸留中とのことでこちらも見学させていただくことに。

あれ?なんだこれは。

これまで見てきた蒸留窯とは全く違う姿形。
ホームページで事前勉強してきたとはいえ、このスタイルは予想外です。

「一体どうやって使うんですか。」

準備してきた質問より先に、とっさに出てきたなんとも平たい質問。

「この中には、ヒノキのチップが入っていて、蒸気を常に当てることができる特殊な窯。
他ではあまり見ない形だから驚いたでしょ。」

小野川さんが笑いながら教えてくれました。

この窯に約180〜200kgのヒノキチップを入れて、採れる精油はやはり約2kg程度。
これまた、大変さが伝わってきます。

それにしてもこんなに大きな窯に、ヒノキチップをどうやって入れるんだ?
どこが蓋?中はどうなっているの?

窯の周りをキョロキョロしていると、遠くに山積みされたヒノキのチップを発見!

近くで見せていただけるとのことで、場所を移動します。
興奮が冷めやまず、小走りになって思わずつまずいたのはここだけの秘密。

どうでしょうか。この規模感とヒノキのチップの山々。
私たち、右下にいるんです。

「チップの砕き方やサイズもイチから研究して、少々荒く尖った今の状態になっています。木の皮が混ざると香りにえぐみが出てしまうので、うちでは製材所から角材を仕入れています。
蒸留が終わったチップは、フォークリフトでここに運ばれて自然冷却しています。」

なるほど。
はじめに見た角材と機材は、ヒノキの精油づくりに欠かせない物だったんですね。

しばらくすると、蒸留を終えたヒノキチップが窯から運ばれてきました。

もうもうと湯気が立ち上るヒノキチップ。
想像以上の量がどさっと広げられるシーンは圧巻です。

スタッフさんは、新しいヒノキチップの入った大きな袋を手際良くケースに移し替えて、二回目のヒノキ蒸留に取り掛かっていきました。

四万十の恵みを伝えたい

エコロギーさんでは、精油を−20℃のかなり冷たい環境下で管理が行われています。
精油に混ざった微量な蒸留水が凍って現れるので、より純度の高い精油づくりができているのだそう。

精油を抽出した後も、純度の高さにこだわった徹底ぶり。脱帽です。

これまでに蒸留された精油を嗅がせてもらえることに。
果物の状態でしか知らない柑橘も多く、実は、取材前からとっても気になっていました。

はぁ〜。この香り、ずっと嗅いでいたい。

すっきりとした爽やかさの中にも甘さや苦味もあってどれも個性豊か。

先ほど蒸留したてのゆずの精油も嗅がせてもらうと、そのまま絞ったかのようなスキッとした切れ味の良い香り。
しばらく寝かせたゆずの精油と比べてみると、こちらはとてもマイルドでまろやか。
どちらも魅力的な香りです。

「香りを落ち着かせすぎると新鮮さが失われてしまうので、製品にする前には香りチェックは欠かせません。自分の鼻と感覚が頼りなんですよ。」と小野川さん。

毎日精油と向き合っているだけあって、香りの表現が豊かです。
私ももっともっと学ばなければ。

初めて嗅ぐ、しょうがやぶんたん、それにぽんかんの精油。

目の前で生のものを切ったかのようなフレッシュさが鼻の奥まで抜けていきます。

「すごい!すごい!なんだか食べたくなってきた。」

自分の語彙力のなさにガッカリ。

でも、そのくらい生感がダイレクトにくる繊細な香りです。

「ここで作られる精油はほとんどが四万十を中心とした高知県内で採れたもの。
地元の良いものをひとりでも多くの人に届けて、知ってもらいたいんです。

丁寧に作られたものを丁寧に加工する。地域の人とのつながりで生まれた香りをこれからも大切にしていきたいと思っています。」

地元に対する熱い想いと精油と真摯に向かい合う姿勢は、学ぶところがたくさん。
もっとお話を聞くべく、お二人にインタビューをさせていただきました。

vol.2へ続く

 

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