香りと旅して

香り

日本の夏の香り「線香花火」の魅力

夏の風物詩の一つである花火。その中でも線香花火は、庭先でも気軽に楽しむことができ、日本の夏の夜を彩ってくれます。「花火の香りを嗅ぐと、昔の夏の記憶を思い出す。」という方も多いのではないでしょうか。今回は、夏を彩る花火の歴史、そして線香花火の魅力に迫っていきます。

1.花火のはじまり

慶長18年(1613年)、中国からきた商人による花火の打ち上げを見た徳川家康が、日本で初めて花火を鑑賞した人物だと言われています。
これをきっかけに、将軍や大名、武士、町人にも花火が流行し、国内での製造もどんどんと広まっていきました。

気軽に楽しめる玩具花火(手持ち花火)が世間に流通すると、江戸の町中では火事が頻発し始めました。後に、江戸を中心に5回にわたって「花火禁止令」が発令される事態にまで発展したそう。
しかし、特例として隅田川河口のみ花火をすることが許されたため、花火の人気が衰えることはありませんでした。こうして、花火で遊ぶために多くの人が隅田川に押し寄せたと言われています。

享保18年(1733年)には、八代将軍・徳川吉宗が、当時の大飢饉や江戸に流行した疫病による死者供養そして厄払いなどを祈願した「両国の川開き」を行い、隅田川で花火を打ち上げるようになります。
やがて隅田川の花火は庶民の娯楽として定着し、現在の「隅田川花火大会」として受け継がれています。

一方、線香花火が誕生したのは、1608年のこと。
当時はいまのように手に持つスタイルではなく、香炉の灰などに立てて楽しんでいたそう。この姿が線香を立てているように見えたことから「線香花火」と呼ばれるようになりました。
線香花火は日本発祥で、日本人にとっては一番馴染みが深い玩具花火として根付いています。

2.東西で異なる線香花火

線香花火は、西日本と東日本で、見た目や形、呼び名、遊び方が異なります。

西では、葦や藁(ワラ)の管(スボ)の中に火薬を入れた「スボ手牡丹」が古くから親しまれてきました。この地域は稲作が盛んで、藁がたくさん収穫できたからと言われています。
それに対し、東では稲作ではなく紙すき業が盛んだったため、藁の代わりに和紙を使った「長手牡丹」が主流になりました。

左:スボ手牡丹 右:長手牡丹

かつては全国にいた線香花火職人ですが、1970年代になると低価格帯の外国産花火が輸入され、日本でも広がりをみせていきました。そして、1998年には国内最後の花火製造所が廃業してしまい、国産の線香花火は一時途絶えてしまったのです。

しかし、当時の煙火協会の副会長が立ち上がり、約2年の歳月をかけて純国産の線香花火製造を再開。今では国内3社が線香花火の製造を続けており、そのうち福岡県にある1社だけが「スボ手牡丹」を作り、その伝統を守り続けています。

3.線香花火の匂いと物語

線香花火の原料は、硝石と硫黄、松煙、麻炭のみ。これらを調合して火薬を作っていきます。
線香花火1本あたりの火薬の量は、わずか0.08グラム。ほんの少し量が違うだけで、火花の出方に違いが出るという繊細な作業です。そしてこの火薬を和紙(こうぞ紙)に包んでしっかりと撚り合わせたら、1本の線香花火が完成します。

線香花火の火薬を燃やすと、水蒸気や炭酸ガスの他、硫黄酸化物が含まれるため温泉地のような独特な匂い(煙)が発生します。
遊ぶ時にはこの煙を吸わないように、風上に立って楽しみましょう。

さらに線香花火は、火をつけてから火の玉が落ちるまでの燃え方にそれぞれ名前がつけられていて、随筆家・俳人でもあった寺田寅彦は短編集「備忘録」の中で、線香花火(長手牡丹)一本の燃え方を、「人の一生」に例えています。

1.蕾(つぼみ)
点火とともに酸素を吸い込みながら、次第に大きくなっていく火の玉の様子。花を咲かせる前に見立てて名前がつけられています。

2.牡丹(ぼたん)
パチパチと力強い火花が一つずつ弾け始めます。一歩一歩進んでいく、青春時代のような姿を想像させます。

3.松葉(まつば)
「牡丹」から勢いを増し、松の葉のように四方八方に火花が広がっていきます。結婚や出産、子供の成長など、人生の転機を表しています。

4.散り菊(ちりぎく)
勢いのあった火花が次第に落ち着いていきます。火の玉がだんだんと色を変え、光を失っていきます。静かに余生を送る晩年に例えることができます。

4.線香花火を長く楽しむ4つのコツ

ここからは、スボ手牡丹・長手牡丹、それぞれの燃え方の違いや、線香花火を長く楽しむためのコツをご紹介します。
現在では国内シェアの99%が外国産の長手牡丹となっているため、西日本の若い世代では「スボ手牡丹を知らない」という人も少なくありません。
しかし最近になって、スボ手牡丹・長手牡丹ともに、国産の線香花火が見直されつつあり、「長く楽しめる」「火花がはっきりしていて綺麗」と注目を集めています。

長く楽しむためのコツ①火をつけるときは「ロウソク」で!
着火はライターやマッチ、チャッカマンを使わず、空き缶などに立てたロウソクを使用しましょう。炎が安定する他、片手があくので花火の先端に集中できます。
また花火と炎の先端同士が触れ合うくらいの距離で、ゆっくりと着火することも大事なポイントです。

長く楽しむためのコツ②「斜め45度」をキープ!
先端に火が着いたら、地面に垂直に持つのではなく、斜め45度に傾けましょう。花火の軸と先端の火の玉との設置面積が大きくなるため、火の玉が支えられ途中で落ちにくくなります。
【スボ手牡丹の持ち方】
先端に火をつけ、火の玉ができたら斜め上45度に向けて持つと、火球が落ちにくく長く楽しめます。

【長手牡丹の持ち方】
先端に火をつけ、火の玉ができたら斜め下45度に向けて持つと、火球が落ちにくく長く楽しめます。

長く楽しむためのコツ③ 「ひねり」が効く!
長手牡丹は、火を付ける前に火薬が詰まっている先端のくびれた部分を軽くひねりましょう。こうすることで、中の火薬がぎゅっと詰まり、和紙の強度もアップします。


長く楽しむためのコツ④ 火球の温度をあげる!
スボ手牡丹は、長手牡丹に比べて火球の温度が上昇しにくいのが特徴です。そのため、風が吹かない日には、火球に息を吹きかけて温度を上昇させましょう。
火球の温度が下がると早く終わってしまうので、よく観察しながら遊んでみてくださいね。

4つのコツを押さえれば、今年の夏は線香花火がさらに盛り上がること間違いなしです。
ぜひ試してみてくださいね。

線香花火を安全に楽しむために、水の入ったバケツを事前に用意しておきましょう。煙を吸い込まないよう風上に立って、1本ずつ遊ぶようにしてください。

いかがでしたか?
花火は、江戸時代から日本人に楽しまれている夏の風物詩です。この香りで、懐かしい夏の記憶が思い起こされる方も多いかと思います。
いつの時代も夏を彩ってきた線香花火で、今年の夏も良い思い出を作りませんか?

参考サイト
もっと関西 西の線香花火 東と違う風情(とことんサーチ)| 日本経済新聞
西の線香花火「スボ手牡丹」レビュー実際の燃焼時間と感想 | 斉藤商店
CBCテレビ
語り継ぐべき日本の逸品〜線香花火〜 | 智慧の燈火オンライン 

TO TOPTOPに戻る