香りと旅して

香りと旅して

花のスペシャリストに聞く!「香り」入門

大田市場に位置する花の卸売市場「株式会社大田花き」を訪れた香り旅編集部。続いては、商品開発部部長さんとご対面です。
「花の香り」の魅力や特徴、さらには卸売会社から見た良い花の選び方までをお伺いしてきました。

花の香りのスペシャリスト

インタビューを行う会議室には、この時期に香りを強く発する数種類の切り花までご用意していただきました。

「こんにちは!よろしくお願いします!!」

ハキハキとした口調で登場したのは、今回お話を伺う宍戸さんです。
なんでもこの方、20年以上前から花の「香り」について研究している、花き業界ではとっても有名なお方なんです。
色や形に囚われない「新たな花選び」の提案をし続け、仲卸業者や花屋さんに講義をしたり、NHKのお昼の番組にも数多くご出演しているそう。

「僕はね、花の中に含まれている成分を細かく分類して、7種のカテゴリーに分けてどの花がどんな匂いで、どう影響するかをいろいろ調べてきたんだよね。」

突然のスペシャリスト登場にドキドキの私。

「この時期が旬の菊や芍薬は、カンファー調の樟脳(しょうのう)のような香りだね。
ただ、単体で楽しむにはあまり向いていないんだ。スペアミントや木材、柑橘のようなすっきりした清涼感のある香りと合わせると、すんごく相性がいいんだよ!」

「花ってどれも甘くていい匂い!と思われがちなんだけど、実は相性があってね。組み合わせによって物凄い威力を発揮することもあるんだ。」

香りに関わってきた私たちですが、そんな選び方があったのか。と、感心するばかり。

大輪が見事な芍薬
精油にも使われるゼラニウム

また、「香り」と「花の色」は大きく関係しているそう。
白い花は、甘い香り。ピンクの花は華やかな香り。など、花の特徴によっても様々。

5月下旬からは、六大花音と呼ばれている香りの強い「ライラック」。三大香木と呼ばれる「クチナシ」が市場に増えるため、場内全体が花の香りに包まれるといいます。

宍戸さんは、場内の香りの変化で季節の移ろいを感じているのだそう。
毎日花の香りで溢れているなんて、とことん素敵すぎる!!(朝早いのはちょっと…)

ですが、良い香りを放つ花にも難点がひとつ。
それは、「日持ちしないこと」。

理由を尋ねてみると、
「良い香り、特に香りを強く放つ花は、それだけ蓄えていた糖分を消費しているんだ。だから、栄養分がすごく必要になるってわけ。ほら、この花なんてすっごく香りが強いでしょう。もう開ききっているから、数日後には変色してくるはずだよ。」

ほ〜、なるほど。

「花は子孫を残すために、手段を使って虫を寄せつけて受粉しているんだ。ひとつは、色や形。そして、もうひとつは、香りだね。香りもね、3種類にわけられて虫の特性をよ〜く捉えているんだよ。」

蝶やハチ、ブヨなどの昼間に活動する虫を呼び寄せるバラや芍薬は「甘い匂い」を、蛾など夜間に活動する虫を呼び寄せる百合や沈丁花は「バニラのような芳醇な匂い」を放つ性質があるそう。

さらに、虫の行動時間に合わせて香りが強くなる時間も花によって変わるといいます。これに加え夜間に虫を呼ぶ花々は、暗い夜でも目立つように「白い花」が多いのだとか。

わたしたちの知らないところで繰り広げられている自然の摂理って本当にうまくできています。

この話で一番驚いたのは、小ぶりな花がチラチラと可愛い「かすみ草」。
花束にもよく用いられるかすみ草ですが、見た目に相反して香りは意外と「臭い」ということ。
(なんでも、足の臭いと同じ成分を含んでいる、らしい。)

スペシャリストに学ぶ!「良い花の選び方」

仕事やプライベートでもよく花を買うことの多い私。
ずーっと気になっていたある質問をしてみることに。
…卸売会社さんの視点で見た”良い花”とはなんでしょうか。

すると
「よし!少しこっちへこれるかな。」
質問するや否や、宍戸さんによる”花の目利き講座”が始まりました。

ー良い花の選び方講座ー
宍戸さん曰く、花の目利きのポイントは4つ。
①生産地
②切前(きりまえ)
③葉っぱ
④花のボリュームとバランス、大きさ

「一般消費者からは見えないけれど、一番大事なのは、生産地だね。適地適作がされているかどうか。ビニールハウスなどの温室で育てられたか、露地栽培かもかなり重要だね。」

卸売会社が花を扱う上で何よりも重要なポイントなのが「生産地」です。

花にとって良い環境で育ったかどうか、その環境をしっかりと与えているかどうか、生産者が花に対してどこまで管理を徹底しているか。
そんなところを重要視しながら、花の選定を行っているといいます。

「真夏の九州で育ったバラと北海道で育ったバラは、どちらがいいと思う?逆に冬になるとどうだろう。」

宍戸さんの説明は、本当にわかりやすくて何よりも楽しい!
私も相方もここぞとばかりに聞き入ります。

次に着目すべきは「切前(きりまえ)」。
切前とは、根が生えている植物を切って採花した時の”切り花の咲き具合”のこと。

これも実は、花によって目利きの仕方が異なるのだそう。
「大体の人は、蕾が多い方がより長い期間花を楽しめると思っているけど、実はそれは大きな落とし穴。蕾だからと言って長く楽しめるわけではないんだよ。」

切前の見極めポイントは「花弁の柔らかさ」

芍薬とバラを例に見せてもらったら、初心者の私たちでも一目瞭然です。

花弁が柔らかい「バラ」
花弁が硬い「芍薬」

花弁が柔らかいものだと切り花になった後でも花は咲きやすいのだそう。逆に花弁が硬い花の切前が早すぎると咲ききらずに終わってしまい、開花を楽しめないままになってしまいます。

「お花屋さんで花を選ぶときは、何よりもここが重要!覚えておくと、ベストな状態で花を楽しむことができるよ。ちなみにこの芍薬は、絶対に咲かないね!こりゃ硬すぎるよ。」

不覚にも蕾の多い切り花ばかりを選んでいた私。(これからは気をつけよ。)

「花の状態を見たら次は葉っぱかな。中には、花は元気だけど葉っぱが変色しているものもあってね。変色しているということは、ちょっと古くなっているという合図。花も葉も生き生きして色鮮やかなものを選ぶと良いよ。」

最後は「花のボリュームや大きさ、バランス」の見分け方を教えてくれました。

1本の茎から数輪の花がついているもの、枝分かれして咲く(スプレー咲きと呼ばれる)バラやカーネーションを選ぶときに気をつけたいポイントです。

「これとこれ、どっちがより価値が高いと思う?」
同じ花瓶から取り出された2本のバラ。花の付き具合や枝野長さが若干違います。

うーん、悩んでいると

「僕は絶対にこっちを選ぶね!これは、素晴らしいよ!」
宍戸さんが選んだ切り花は、花付きもよく、分かれた枝の長さにも奥行きがあり、確かにバランスがとれています。

「切り花って生産者の感性が見えるんだよね。芸術性もかなり表れるから、誰がどう作ったか、どのタイミングで花を切ってくるかが、花の良し悪しを決めるんだ。」

花のプロによる、花の選び方。本当に勉強になることばかりで感動すら覚えました。

後々見返した写真には、驚きのあまり目がまん丸になっている私が何枚も写っていました。

花にも流行がある…?

ファッションと同じように、花にも流行は存在すると宍戸さんはいいます。

「面白いことに、年代によっても花の好き嫌いって実は分かれるんだよ。今の若い子たちはユリが苦手らしい。大きくて異様な香りがするからね。韓国の影響を受けて、くすみカラーの花が人気みたい。
バラは70代くらいの人にはあまり好かれないけど、50〜60代にはものすごく好かれているんだ。花屋にバラが並び始めたのが、バブルの時代だからね。」

今では、人間の交配や改良によってカラフルな花も増えてきており、ウェディングなどで使用されることも多いそう。

「見た目もそうだけど、香りも複雑になってきているんだよ。交配の数だけ、香りもどんどん増えていってるから、昔の研究が通用しなくなってきたね!」

ワハハと笑う宍戸さん。これからも宍戸さんの研究は続いていきそうな予感です。

1年を通してあらゆる品種の旬がやってくる花の世界。

その中でもいい香りの花は、春〜初夏にかけてが一番多いといいます。

「夏場に香るのは、香水にも使われるほど官能的な香りのチューベローズかな。他には、ジンジャーリリーという生姜の花の仲間もあるよ。ジンジャーコロナリウムといって物凄くいい匂い!ちょっとスパイシーだけど、柑橘っぽい香りがふわ〜っと広がるから僕は好きだね。」

「最近人気なのがキンモクセイ。花弁が小さすぎて3〜4日しかもたないのに、花屋さんはみんな買っていくね。扱いが難しいけど、最近はよく流通しているね。」

季節のいい香りの花は、年々ニーズが高まってきているよと宍戸さんはとても嬉しそうに教えてくれました。

「花の鮮度はもちろん、香りも含めてベストな状態でお客様の元に届くようにするのが、自分たち卸の使命だと思っているよ。そのためには、良い花を目利きし、スピード感を持って市場を回していくことが重要だね!」

お花屋さんや街中で花の香りを感じたら、きっと宍戸さんを思い出すんだろうな。

毎日の生活に花を添えるだけで気持ちがパッと明るくなれるのは、色や形だけじゃなく、香りにも癒されているからなんだ、と改めて発見することができました。

株式会社大田花き
東京都大田区東海2-2-1
HP

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