香りと旅して

香りと旅して

【京都】ハイブリッド商店街で出会った親子の絆

京都北部、日本海に面する城下町「西舞鶴」を訪れた”香り旅編集部”。
そこで出会ったのは、今と昔が融合したレトロな街並みとここに暮らす人々の日常でした。
昔の面影を守り続ける大衆銭湯「若の湯」と、地域密着型カフェ「machiya」を訪ねます。

いつまでも変わらない温もり

「昔に比べると常連さんはずいぶんと減ったし、顔ぶれもだいぶ入れ替わったね〜。」

そう語るのは、若の湯の四代目女将の若井さん。

この日、女将さんと待ち合わせをしたのは、開店時刻の午後3時ちょうど。
4月の春先にも関わらず、陽が傾くにはまだまだ時間がかかりそうな汗ばむ陽気。
外にいるとじんわりと汗が出てくるほどです。

西舞鶴のアーケード商店街にある創業120年の歴史をもつ銭湯「若の湯」。
レトロな洋館風の建物の前には、白いTシャツにサンダル姿、首にはタオルをかけ、桶や手提げを片手に並ぶ数名の男性客。今かいまかとオープン時刻を待ちわびています。

なんだか、映画のワンシーンを目の当たりにしているみたい。

車の中で待機していた編集部。
こんな世界があったのかと、現実と映画の世界の狭間で男性客と同じように開店を待っています。

しばらくして、入り口のドアがガラガラと音を立てて開くと、女将さんらしき女性が大きなのれんを店先に出し始めました。

いよいよ本日の営業が始まります。
並んでいたお客さんたちは、銭湯に吸い込まれるかのように中へと入っていきました。

男性客の後に続き、いよいよ私たちも店先へ。

「遠いところ、よく来てくれたね。今は、いつもの男性陣ばかりだからよかったら女湯を見ていって。」
穏やかな雰囲気とやさしい笑顔の女将さんに案内され、私たちも早速のれんをくぐります。

愛され続ける貴重な銭湯

のれんをくぐったその瞬間、本当に映画の世界に入り込んだかのような昔懐かしい景色が広がっていました。入り口には、本日当番の番台さんがおひとり。

ワクワクしながらさらに先へと進むと、脱衣所には数字の書かれた大きな木製のロッカーと桐ダンスが威厳を放って佇んでいます。

「このロッカーは、創業当時から変えてないんです。意外と物持ちがいいのよね。」
120年もの間使い続けられてきてこの圧巻の佇まい。

ふと上を見ると、タオルやシャンプーボトル、風呂桶などがぎっしりと並んでいます。

「これは、常連さんのものなのよ。名前を書かなくても誰のものかちゃんとわかるの。みなさんすごいわよね。」

昔に比べてだいぶ減ったという常連の女性陣。それでも尚、これだけの私物が置かれているということは、まだまだ根強い人気のある証拠。
こちらの「若の湯」は、1923年に創業し、2018年には登録有形文化財に指定された歴史の深い銭湯です。
ここ舞鶴には、若の湯の他に「日の出湯」(東吉原)の2軒だけが今も営業を続けています。

「昔は13軒ほど銭湯があったんだけどね。後継がいなくなったり、経営が難しくてどんどんと減っていっちゃったのよ。」
「だからこそ、ここをずっと守っていかなきゃいけないと思って。ありがたいことに、県内外からたくさんのお客さんが今も来てくれているの。」

全国の銭湯ファンも足を運ぶ貴重な若の湯。
1日30〜40人、多い時はそれ以上にもなり、クルーズ船が来た時には船に乗っていた人たちが疲れを癒しに訪れることもしばしば。
最近は海外の観光客も増えてきたそうで、女将さんはなんと英会話教室にも通っているそう。

「いろんな人に銭湯を楽しんでもらいたいからね。話ができなきゃしょうがないでしょ。」
そう笑って話す女将さん。

銭湯はもちろんのこと、女将さんのお人柄もお客様から愛されている秘訣なのだろうなと感じた瞬間でした。

浴場を彩る「ペンキ絵」と「タイル」

お話を聞いていた脱衣所には、浴室からの湯気がもわーっと入り込み次第に熱気も増してきます。
すると、お風呂屋さんの柔らかで清潔感のあるお湯のにおいに一気に包まれていきます。

私とカメラ担当の相方は、すかさずスンスンとそのにおいをキャッチ。心までホワ〜っと暖かくなる良い匂いに癒されます。
良いにおいの元である、浴室も見学させていただくことに。

若の湯の最大の自慢は、壁一面に描かれた大きな「ペンキ絵」。関西ではタイル絵が主流の中、なかなかお目に書かれないというこちら。
女湯には「赤富士と滝」、男湯には「富士山と天橋立」が描かれているそう。

現役で活躍しているペンキ絵師は、日本でたった3名のみ。
そのうちの一人、中島盛夫氏が書いたという赤富士の絵は、若の湯の浴室をパッと華やかに彩っています。

さらに、若の湯を飾るのは昔ながらの「タイル」たち。
形、色、模様まで違うバリエーション豊かな鮮やかなタイルは、創業当時から使われているものや新たに修復したのもまで様々。

タイル同士のつなぎ目(目地)は、年を重ねるごとに劣化してくるため定期的なお手入れが必要なのですが、なんとここも女将さん自らが行っているそう。
脱衣所の装飾やのれんも定期的に女将さんが入れ替えをして、お客さんがいつでも楽しめるように工夫を凝らしています。

「銭湯は、いろんな人が集まる場所。そこで生まれるコミュニティーを大切に守りながら、これからも営業を続けていきたいね。」
すると、女湯の扉がガラガラと開き本日初めてのお客さん。

「いらっしゃ〜い。今日も暑いわね。」

女将さんは、素敵な笑顔でお客さんをお出迎えしていきました。

もうひとつの”行きつけ” machiya(マチヤ)

「若の湯」の斜向かい。可愛いのれんがかかったレトロな外観のカフェ「machiya」。
こちらは、女将さんの息子さんが店主を勤めるソフトクリーム屋さんです。

元々、空き家となっていた古民家を建築士である息子さんが再生し、誕生したお店なのだそう。店内に入ると、ヒノキの良い香りがふわ〜っと通り抜けました。

店主の若井さんにお聞きすると、

「古民家の良いところは残しつつ、新たに加える柱をヒノキで作ったんです。毎日ここにいるから自分では匂いに疎くなってしまったけどね。お客さんには好評だよ。」雰囲気と香りが相まって、とっても居心地の良い店内。

天井や床は元の素材を生かした作り。奥御座敷の小上がりも用意されているため、お子様連れでも安心してイートインを楽しむことができます。

machiyaの名物は「おとうふソフト」。
同じ商店街に店を構える豆腐屋「藤井とうふ店」が作る濃厚な豆乳を使用しているのだとか。

私たちがお店の外観を撮影している最中、オープン前に並んでいたであろう常連さんたちが、若の湯から一目散にこちらのmachiyaへ直行していきます。
しばらくすると、みなさん幸せそうに「おとうふソフト」を味わいながら、嬉しそうにお店を後にしていきました。若の湯で温まった体に、ひんやり冷たいおとうふソフト。

なんたる幸せ!この組み合わせは最高すぎるじゃないか!

地元の人たちにとっては当たり前の光景でも、わたしたちにとっては新鮮な景色。

お客さんの波が引いたところで、店主の若井さんがわたしたちにもおとうふソフトを振る舞ってくださいました。(しかも、特別にお芋のチップス添え!)

西日に照らされて火照った編集部。お風呂上がりのさっぱり感は全くないけれど、それでも問題ない!

ソフトクリームが溶ける前に、ささっと撮影を済ませいざ実食。

ペロリとひと口食べただけなのに、ふわ〜っと大豆独特の濃厚な甘さが一気に通り抜けます。
生粋の豆乳好きな私は、思わず拍手。

「美味しい♪美味しい♪」と言い合いながら、あっというまに完食。
こちらでは、おとうふソフトの他にも旬の地元食材を使った限定パフェもあるそう。
この時は、舞鶴産のいちご「章姫(あきひめ)」がたっぷり乗った見た目も華やかな豪華なパフェ。

お腹に余裕があったらこっちも食べたかった…

いちごの他に、地元舞鶴産の夏みかんをトッピングした爽やかな「夏みかんパフェ」や「おとうふソフト」に湯葉豆腐を混ぜ込んだ「マイヅル湯葉ジェラート」などなど、思わず全種類食べたくなってしまうようなメニューが1年を通して楽しめます。

若の湯さん、machiyaさんがあるこの商店街は、理容店やブティックなど昔ながらのお店が今もなお残る地区。日本の古き良きを体現できる商店街に、なぜだか数本だけやけに洋風なアーケードが。

しかも、英語表記。ここ西舞鶴は、貿易時代に多くの外国船舶が立ち寄った場所。
彼らを歓迎するために急遽作られたものが、今もきれいに残っているのだそう。

machiyaさんに別れを告げ、夕陽に照らされた商店街をただのんびりと散策する編集部。

通りを抜ける風にのって、どこからかやってくる夕食の匂いを感じながらこの日の取材は終了しました。

若の湯
京都府舞鶴市本58
HP

machiya
京都府舞鶴市平野屋154
050-3101-1154
HP

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