香りと旅して

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【青森】青森ヒバ一筋!香り作りから植樹まで行う老舗製材所のものづくり

今回の取材は東北初潜入!秋の深まる青森県下北半島。ここに「青森ヒバ」に惚れ込み、建築材から家庭用品、精油まで、ヒバ一本にこだわったものづくりをしている製材所があります。木材を最後の最後まで使いつくし、さらには未来を見据えた植樹活動まで。その思いは人から人、親から子へと受け継がれていました。

香り旅の取材を初めて早一年。
実は当初から「青森ヒバ」を見にいきたい!と密かに企画をあたためていました。
神奈川出身の私は青森ヒバという名前にそもそも馴染みがなく、その存在を知ったのはここ数年の話。大手の百貨店などでも青森ヒバの商品を目にするようになり、「すごいいい香りのする木だな」「土地の名前が付けられた木って一体どんなものなんだろう」と興味を持つように。

そして、雪深くなる前に!と車を走らせ、ついにやってきました青森県!地図で言うと右上のとんがっているところですね。マグロで有名な大間のお隣、風間浦村です。

青森ヒバは青森に生息する日本特有の針葉樹高木。県の木としても指定されていて、古くから県民に親しまれてきました。

取材をお受けいただいたのは「わいどの木・村口産業」さん。
こちらは青森ヒバの木だけを扱うというこだわりの製材所。中にお邪魔すると、上も下も横も視界の中が木一色!
すぅーとするヒバ特有の清涼感のある香りに「ついにヒバの取材に来れたんだな〜」と実感します。

どっから来たんだ?菓子でも食べーと歓迎してくれる村口社長

村口産業さんが青森ヒバ一本で事業を始めたのは今の社長の代になってから。
先代が始められた当初は下駄作りや製材業を営んでいて、隣ではいまの社長である村口さんが養豚業を行っていました。
先代から製材業を継ぐとき、村口さんは養豚業をすっぱりと辞め、木材の道へ。以来30年間、木材は「青森ヒバのみ」にこだわり、建築用の製材加工や木工作品を製作・販売をしています。

「青森ヒバはカビとか雑菌に対して抗菌作用があって、シロアリを寄せ付けないんです。昔から神社仏閣に使う建材として有名だけど、社長は一般の家庭でも使える商品を作りたくて、まな板とかお箸とかも作っているんですよ。」

そう教えてくれたのは奥様の節子さん。
一般のお客さんが来るという広い店内には、使い勝手の良さそうな調理器具やかわいらしいおもちゃがずらり。昔は毎週のようにこちらで木工体験も開催していたそう。

店舗の隣には、なんと総ヒバづくりのミストサウナが。ヒバの木材を細かいチップ状にして、その下から熱い蒸気を当てています。溢れ出る大量のミストからはすぅーっとした清涼感のある香りがいっぱいに広がり、まるで森林浴!

「私は木の中でヒバの香りが一番いいと思っているんですよ。ヒノキの方が知名度はあるけど、鼻もすぅーっとしてね、いいんですよね。」

節子さんもヒバに魅入られて数十年。社長と二人三脚で製材所を切り盛りしてきました。

ヒバはヒノキと同じヒノキ科の樹木。ヒノキチオールという特別な成分が含まれていて、抗菌、防虫、消臭、リラクゼーション効果があるといわれています。

「ヒバの香りは性格も良くなるんだよね、社長!」
「あ〜れ冗談でねぇ。悪くなんだよ。」
「それじゃだれも買わないじゃない。まーったく、白って言えば黒って言うんだから」

ご夫婦の軽快なやり取りに私たちも大笑い。長年連れ添ったからこその息のあった掛け合いです。

こちらでは青森ヒバの精油(エッセンシャルオイル)を抽出中。この日は私たちの訪問に合わせて作業を進めてくれていました。

村口産業さんが精油を作り始めたのは今から5、6年ほど前。始めた当初は製材時に出る“おが粉”を使っていましたが、試行錯誤の末、いまはチップ(木片)からオイルを抽出しています。

大量のチップが入れられた釜の下から熱い水蒸気を当てて香り成分を出し、その水蒸気を急激に冷やすことで精油と香り成分が少し残った芳香蒸留水とを取り出す「水蒸気蒸留法」。当初から精油づくりを担当しているという大室さんに、その様子を見せていただきます。

香りを含んだ水蒸気が細い管で冷やされながら液体になっていく

「今日は16kgのチップを蒸留していて、精油が採れるのはだいたい100mlくらいかな。少ない時はその半分くらいの量しか採れないですね。」

精油が採れる量は木によって違うそうで、大室さんは毎日その量を記録しています。

精油はさらに濾すことで、より純度の高いオイルに仕上げていきます。
出来立てほやほやの精油を嗅がせていただくと、爽やかでとーってもいい香り!ヒノキにも似ているけれど、少し野性味があるというか、生きている木の香りがするという感じ。思わず目を閉じて、全身で堪能したくなるような香りです。
採れたばかりの精油を嗅がせていただけるのは、香り旅取材の特権!ここぞとばかりにクンクンクン。

「精油はそれ自体の香りが強いから、木ごとの香りの違いっていうのはあまりわからないけど、奥の製材の方に行くと、切る木によって匂いが違うのがわかりますよ」

蒸留機の奥には、間仕切りのない広々とした作業場が。
ここでは仕入れてきたヒバの丸太を大きな機械で挽き、住宅用の建材や木工用のサイズに切り分けていきます。
職人さん達の無駄のない動き。かっこいいです。

オンラインショップでは建築材から日用品までさまざまな商品が取り揃えられていますが、村口さんのところではお客さんに直接売ることを大切にしていると言います。

「建材もね、仲卸はしたくないんです。ヒバはカビを呼ばないし、子供部屋にはヒバを使いたいっていう人も多いんだけど、うちでは施主さんに直接渡すことにしているの。施主さんがそのヒバを持って、工務店さんにお願いしてね。そうすればヒバを適正な価格で売ることができるからね。」

先代の頃から使っているという年季の入った機械はどれも現役。鉄工所から持ってきたというこちらの削る機械もなかなかの渋さです。

「機械は古いもののほうが面白いものができるね。アイディアがたくさん出てくるんだよ。」

その日の仕事が終わってからも、こんなことやりたいな、あんなもの作りたいなと、常にものづくりのことを考えているという社長。
失敗したものもたくさんあると言いながらも、楽しそうにお話をしてくださる姿に、“ヒバ愛”が滲み出ていました。

こちらは製材のときに出る「おが粉」。大量の木材を扱うため、自動で専用の小屋に溜まっていく仕組みに。触ってみると、生の木を感じるしっとりとした質感です。

「青森ヒバを最後の最後まで使いたいっていう思いがずっとあって。おがくずとかカンナくずとかも商品にしたいなって思っていたんです。」

そして生まれたのが「ヒバ爆弾」と名付けられたこの円柱形の商品。
おが粉を乾燥させて、専用の機械で4cmほどの厚みに圧縮させたシンプルなものなのですが、その吸水力がすごい!水をかけてみると、みるみる倍ほどの高さまで膨れ上がりました。

湿気を吸い取ると2〜3倍に膨らむというヒバ爆弾。ネーミングも楽しい。

100%天然の芳香除湿剤として、流しの下やクローゼットの湿気取りに使えると言うこの商品は、ヒバの爽やかな香りも楽しめて、消臭力も抜群。テレビにも取り上げられ、生産が追いつかなくなるほど爆発的な人気商品になりました。

「使い終わったら生ゴミとかにかけるのもおすすめです。臭い消しになりますよ。」

これまでは畜産場などに藁材の替わりとしてあげたり、捨てたりしていたというおが粉も、アイディア一つで、最後の最後まで使い尽くせる商品に。
この他にも、精油を作る際に出る芳香蒸留水や、お風呂に入れて香りを楽しむ湯玉、糸状のヒバを入れた糸ヒバ枕など、木工の作業場からはさまざまなアイディア商品が生まれています。

贅沢なヒバ作りの犬小屋の隣には、これまた大きな丸太が鎮座。

「これは樹齢が400年くらいかな」

さらっと言いますが、いまから400年前っていったら江戸時代ですよね。徳川なんとかさんが活躍していた時代に芽吹いた木…すごいです。

製材所の裏手には樹齢200年、300年というド迫力のヒバたちが積み上げられていました。どれも直径が60cm以上はある大木で、圧巻の光景。現在青森ヒバは国有林として管理されていて、伐採する量も決められてるそう。

切り口をよく見てみると、外側2cmくらいのところで色に違いがありました。

「うちでは外側の白いところは使わないんです。使うのは中の赤身の部分だけ。この赤身のところに腐らない成分が入っているんですよ。」

村口産業さんでは抗菌、防虫、消臭などの有効成分をきちんと使うために、建築材や木工品、オイル(精油)につかうチップに至るまで、すべてこの赤身の部分を使用しています。

杉やヒノキは30〜50年かけて成木になりますが、青森ヒバは100年という長い年月をかけて大きくなります。樹齢はなんと800〜1000年。
風も強く、しばれる(厳しい寒さの)青森の地で、ゆっくりゆっくり成長していくのですね。
精油を作っていた大室さんも青森出身。お話を聞くと、ヒバは子供の頃から馴染みのある存在だったそう。

「実家も家の柱はヒバでしたね。昔の普通の家はみんなそうだったんじゃないかな。いまは価格が上がっているから難しいかもしれないですね。」

冬に弾けるというかわいらしいヒバの種

店舗と作業場のお隣には、お風呂や家具なども全てがヒバという「総ヒバ」の一軒家。
こちらは一棟貸しの宿泊施設になっていて、全国からヒバ好きが集まってくるそう。別荘感覚で毎年来るという人も多く、この日は山口県からのお客様がお泊まりにきていました。

建物の前には記念に植えたというヒバの木が。まだ細くも見えるこの木は20歳ほどとのこと。みずみずしい葉っぱがきれい!

「宿泊の家も店舗の方も、床下には全部ヒバのチップを敷き詰めているんです。だから床下特有の嫌な匂いもしないし、湿気とかカビも一切寄せ付けないの。」

実際にヒバの効果を体感したり、お客さんにも公開したりと、まさにヒバ一色の村口産業さん。ただものを作るだけでなく、ヒバの「これから」も視野に入れ、なんと植樹活動まで行っているのだとか。
温暖化の影響も考えるともっと北の土地でもヒバは育つのではと考えた社長は、自ら北海道を訪れ、知り合いや人のつながりを頼りに、遠くは稚内まで足を伸ばし、4年をかけて約300本ものヒバの苗を植樹。いまではその思いに賛同した人も増え、自ら土地を買って何百本もヒバの苗を植えたという人もいるほど。

村口産業さんの掲げている「わいどの木」というお名前。わいどとは青森・下北半島の言葉で“わたしたち”という意味。
わたしたちの木、わたしたちのヒバ。
青森ヒバはまさに村口社長の人生の一部になっていました。

村口産業さんの元で製材されたヒバの一部は、東京の「カルデサック ジャポン」というお店でも展開されています。

実はこのお店、娘の村口実姉子さんが立ち上げた青森ヒバのプロダクトブランド。
もともとファッションデザイナーとして活躍していた実姉子さんは、2015年に青森ヒバに特化したブランドを設立。現在は弟さんもこちらの工房で木工製作を担当しています。

編集部は恵比寿にあるお店にお邪魔してきました。

ヒバの成分<ヒノキチオール>の科学式をあしらったロゴ

カルデサック ジャポンでは、木肌の美しいスツールやペットのご飯台、さらにはリードディフューザーや入浴剤など、スタイリッシュな商品を作り出しています。

SNSでも盛り上がりを見せていて、なかでも丸太スツールはファンも多く、オンラインショップでは入荷と同時に売り切れてしまうことも。
海外からのお客様も多く、実際に商品を見た私たちもその美しさに思わず見入ってしまいました。

「ここでは商品の製作から梱包、配送まで全てを行っているんです。ヒバは生き物なので、風を通してあげたり、湿度管理なども大切。スツールは木に含まれる油分が底から滲みでることもあるので、そういったデメリットもお客様と直接やり取りすることでお伝えすることができています。」

幼い頃から実家のやり方を見てきた実姉子さん。ヒバへの愛情があるからこそ、お客様の元に商品が届くまでを、自分たちでちゃんと見届けたいと言います。
青森と東京。遠く離れていても、親と子で同じ思いを持ってヒバと向き合っているんですね。

カルデサック ジャポンは都内に2店舗あるので、実際に青森ヒバを見てみたい!香りを嗅いでみたい!という方はぜひ足を運んでみてください。

仕事というより、ひとつの“生き方”を見せていただいた今回の香り旅。ここまでひとつのものに惚れ込めるというのは、なんだかとても眩しく、羨ましく思いました。
これからも青森ヒバの魅力を存分に伝えていって欲しいですね。

取材をお受けいただきました村口社長、節子さん、実姉子さん、大室さん、本当にありがとうございました!

わいどの木 / 有限会社 村口産業
青森県下北郡風間浦村易国間字大川目6-7
HP

Cul de Sac <中目黒店>
東京都目黒区上目黒2-24-13

Cul de Sac-WORKS <恵比寿店>
渋谷区恵比寿2-6-25-1F
HP

参考文献
「青森ヒバのある暮らし」村口実姉子

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