【石川県】クロモジ・スギの精油づくり
日本各地の香りと出会う “香り旅”。
記念すべき第一弾は、石川県白山の麓(ふもと)に蒸留所を構え、自然の恵みを活かしたアロマ(精油)づくりをしているアースリングさんの元を訪ねました。
金沢駅から車を走らせること約1時間。くねくねした山道を進んでいくと、視界が開けた先に一軒の大きな建物が。
こちらはハーブ園のミントレイノさん。
今回取材を引き受けてくださったアースリングさんは、こちらのハーブ園の中にアロマの蒸留所を構えています。
初めての「取材」に乗り込んだ、香り編集部2名。
緊張感もマックスな中、ひとまず素材を撮らなければと、慣れない一眼レフで周囲をバシャバシャ写真に収めていきます。
このシャツで失礼じゃないかな。
ちゃんと質問できるかな。
などとソワソワしていると、
「こんにちは」
と、アースリングの蒸留技師・大本さんと待望のご対面。
さっそく蒸留所の中にお邪魔すると、さすが香りの製造現場。木々の香りや甘みのある香りなど、様々な「香り」が部屋中に充満しています。
上にも下にも香りづくりの原料が並び、奥にはホームページで何度も見ていた蒸留機が一際の存在感を放っています。
これまで香りの製造方法などを調べてはいたものの、本物の「蒸留機」を拝むのはこれが初めて。
「おー」
と思わず小学生のような反応をしてしまうアラサー・アラフォー編集部。
お電話でのイメージ通り、明るく穏やかな物腰でお話をしてくれる大本さんに、取材への不安も徐々に和らいでいきます。
お邪魔したこの日は朝から「スギ」の香りを抽出中とのこと。
大きな釜からはもうもうと熱そうな湯気が立ち登り、時折鳴るボイラーのゴーッという音や、立ち込める香りたちに、しばし棒立ち状態に。
都会で生活している私たちにとっては、なんとも非日常的な空間です。
森の樹木やハーブから抽出する、100%天然の香り
アースリングさんでは地元・白山の山々で採れるクロモジやスギなどの間伐材や、ハーブ園で採れたハーブから、「水蒸気蒸留法」という方法でアロマ(精油)を抽出しています。
いよいよ我々もこの製造工程を見学させていただくことに。
「水蒸気蒸留法」とは、水に溶けにくい性質の植物を、水蒸気蒸留させて香料を抽出する方法のこと。
専用の釜に原料となる植物を入れて水蒸気を送り込むと、植物中に含まれている精油成分が気化して水蒸気と一緒に上昇。 その水蒸気を隣の冷却層へと送り、急激に冷やしていくことで水蒸気を液体に戻していきます。
すると、芳香成分である精油と、芳香成分を微量に含んだ芳香蒸留水(フローラルウォーター)と呼ばれるものの、2層に分離されて、集められていくという仕組み。
まるで理科の実験のような抽出方法。 ネットや本で知ったつもりになっていたけれど、やはり実際の現場を生で見ることで、すとんと自分の中に入ってくるのを感じます。
それぞれの製造工程の写真を撮らせていただきながら、用意してきた質問をしまくる私たち。
こちらの拙い取材にも大らかに受け答えしてくださり、時には
「ここも撮る?」
「ここは大丈夫?」
と、撮れ高まで気にしてくださる大本さん。
初めての取材先がこちらで本当によかった。
この上澄みの、色の付いた部分が100%天然の精油。 普段わたしたちが茶色や青色の小瓶で購入している精油(エッセンシャルオイル)です。
どうやってこの上澄み部分を取り出すのかと思っていたら、下のコックを外して芳香蒸留水の部分を先に流してから取り出していました。なるほど!
出来立てほやほやの精油を嗅がせていただくと、木特有の爽やかな香りの中に、少し青っぽさも感じるようなちょっぴりワイルドな香り。
抽出した精油はこの後しばらく寝かせて、香りを落ち着かせるのだそう。
商品として完成した精油も嗅がせていただくと、こちらは爽やかな香りの中に、少し柑橘のような甘さも感じられました。
時間を置くことでこんなにも香りに変化が表れるとは。
スギというと「花粉」のイメージしかなかった私たち。
恐る恐る正直に伝えてみると、
「スギってマイナスのイメージがあるし、スギの良さを知らない人も多い。僕はそこを変えていきたいんです。」
と大本さん。
なんかすごい。
なんかすごい人のお話を聞いている。
自分の語彙力にがっかりしつつ、でもこんな感想がしっくりくるような気がしてきます。
森林浴をしているような、安らぎを感じさせてくれるスギの香り。
「スギ」と聞くだけで鼻がムズムズするという方。 イメージ払拭されます。ぜひ。
上品で爽やかな香りが魅力の香木「クロモジ」
香りの原料である樹木を見学するため、近くの山へも案内していただきました。
富士山、立山と並び、日本三名山(日本三霊山)と言われる石川県の白山。 10月のまだ日差しが暑い時期にも関わらず、森に入った途端、辺り一帯がひんやり涼しい空気に包まれます。
今回編集部のお目当ては、石川県に多く自生している「クロモジ」の木。
クロモジはダークグリーンの樹皮にできる黒い斑点を文字に見立てて 「黒文字」と名付けられたと言われています。
クロモジというと高級爪楊枝や、和菓子の楊枝を思い浮かべる方も多いはず。 かくいう編集部も、恥ずかしながらクロモジの精油が作られていることを、最近知りました。ごめんなさい。
大本さんに枝を割いていただくと、すーっと爽やかな香りが。
クロモジには抗菌作用のあるリロナールという香り成分があり、古くは幹を割いて歯ブラシとして使っていたり、お寺のお坊さんが薬草として村人に分け与えていたのだとか。
そんな木の特性や歴史まで、ユーモアたっぷりにお話ししてくれる大本さん。 気の利いた質問ができない私たちには、有り難すぎます。
初めての取材先がこちらで本当によかった。
白山の豊富な天然水で作るアロマ
標高2702mの白山。
山頂では夏でも雪が残り、地下に染み出した雪解け水や雨は、山の木々や土壌が、長い年月をかけて濾過していきます。
大本さんの蒸留所では、地下300mから湧いている天然水を、ポンプで引いて蒸留に使用。
山間にある蒸留所の周辺にも、冬には3mほども雪が積もるそうで、冷却装置にこの自然の雪を活用することもあるのだとか。
豊富な水源を誇る白山の天然水と、土地の植物とが織りなす香りづくり。
ああ、なんて素敵。
なんだか心が洗われるような気持ちになった私たち。
大本さんのものづくりへかける想いが、だんだんと見えてきました。