香りと旅して

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【奄美大島】昔ながらの黒糖づくり

奄美大島を訪れた香り旅編集部は、この土地で昔から親しまれている黒糖づくりの現場へ。親子3代に渡って島の味を作り続けている水間黒糖製造工場さんにお話を伺ってきました。

島の味・黒糖づくりの現場へ

奄美大島ではどこの家にもあるという黒糖。
お茶請けの定番のお菓子であり、お酒のお口直しや、黒みつにしてヨーグルトにかけたりと、各家庭でいろいろな食べ方を楽しまれているのだそう。

これまで黒糖に馴染みのなかった私も興味津々。島の北部にある水間黒糖製造工場さんでは無料で工場見学をやっているとのことで、さっそくお邪魔してきました。

見学するならこの時間がいいよと教えられ、到着したのは朝8時。
案内されて建物の奥の方へお邪魔すると、そこには広い作業場が。中央には見たこともない大きな釜。真っ白な蒸気に囲まれて、何やら作業が始まっています。

長い棒を使って、ゆっくり釜底をかき混ぜているのは水間黒糖の水間社長。今朝は6時からサトウキビを煮詰める作業をしているといいます。

この大きな平たい釜は登り窯になっていて、中に入っているのは今朝絞り出したばかりのサトウキビの汁。
初めに直火が当たる釜でサトウキビの水分を一気に飛ばし、苦味が出ないように丁寧にアクを取っていきます。次に奥の釜に手作業で汁を移し入れて、余熱でさらに煮詰めていくのだそう。

釜の火力を上げるために薪の炎に重油を吹きつけていて、そのゴーという大音量が工場一体に響いています。

一度に250kgもの汁を煮詰め、その作業は1回につき1時間以上もかかるのだとか。焦げないように釜の底をずっと掻き回していく作業はかなりの力仕事ですね、とお聞きしてみると、

「まだ水分があるうちは軽いけど、蒸発していって糖分だけになっていくと重たくなってくるんですよ」

と明るい表情で教えてくださる水間さん。

香りマニアの私たちは、もうもうと広がるサトウキビの蒸気に顔を近づけながら鼻をクンクン。黒糖を作っている所なら、お砂糖の甘い香りがするのかな?と想像していたけれど、釜から感じとれたのは苦味のあるような、青臭さもある香り。

思っていた香りと違うな、などと考えている間にも、どんどんと水分が抜けてとろみがついていくサトウキビ。色も緑から茶色がかった色へと変わり、さっきまで青みのあった香りも、今度は砂糖の甘さを感じるやわらかい香りへと変化していきました。

釜の中の汁の出どころが気になっていたところ見つけたのは、工場の隅にあるこちらの赤い圧搾機。前日までに集めてきたサトウキビを、この機械を使って絞り出していくのだそう。なんとこの絞りの作業、この日は朝の3時からやっていて、その量なんと1トン!

汁を取った後のサトウキビも無駄にはしません。糖分が良い堆肥になるのだそうで、また畑へと撒いて活用します。

時間との勝負

釜で煮詰めたサトウキビは手早く攪拌機(かくはんき)へと入れ込み、空気に触れさせていきます。さらに水分が抜けた黒糖はその後バットに入れられ、冷ましたり、切り分けの作業へ。釜にはまた新たなサトウキビの汁が入れられ、この工程を一日に数回繰り返していくのだそう。

釜の火力を上げていく光景も、工場の天井いっぱいに広がる真っ白い蒸気も迫力満点。バットに入れられた黒糖も、見ているそばから固まり始めていて、まさに時間との勝負です。

黒糖ってこんな風にして作られているんだと初めてみる光景になんだか胸いっぱいの私でしたが、一番感動したのは、働かれている皆さんの流れるようなその動き。
あれやって、これやってと声を掛け合うことが一切なく、周りの人の動きや火力の音、サトウキビの香りの変化を全員が体で感じ取り、阿吽の呼吸で作業が進んでいくのです。

職人の密着や、仕事人のドキュメンタリー番組に目がない私。この工場の仕事風景には思わずうっとりと見惚れてしまいました。

攪拌機の側面に残った黒糖は、さらに攪拌させて水分を飛ばしていきます。ヘラで掻き取ったら、温かいうちに一粒一粒手でちぎって丸めて「鍋かき黒糖」の完成。こちらは作れる量も少なく、人気の一品です。

バットに入れて冷やし固められた黒糖も、全て手作業で四角く切り分けられていきます。どんどんと出来上がっていくバットの数に追われながらも、この丁寧なハサミさばき。「ちょっとつまむのにちょうど良い大きさ」にカットされた黒糖は、食べる人への思いやりを感じます。

「この前県外から来たお客さんは、梅酒を漬けるために黒糖買われていきましたよ。中には黒糖焼酎の瓶の中に入れると美味しいんだっていう人もいてね。皆さん色々ね」

そう教えてくださったのは、こちらでお仕事を始めて7年ほどという地元の奥様。私たちの質問に笑顔で答えてくださりながらも、作業の手は全く止まりません。(かっこいい!)

畑の違いや収穫時期で変わる黒糖の味

黒糖というと、硬い・甘いというイメージしかなかったのですが、工程ごとに出していただいた黒糖を一口いただく毎に「黒糖ってこんなに美味しいの!」とその概念がガラリ。
攪拌前の水飴のような黒糖は、ずっと舐めていたくなるほどの美味しさ。鍋かき黒糖はホロホロと口の中でほぐれ、コクのある優しい甘さにびっくり。

ミネラルやビタミンが豊富と言われている黒糖ですが、本当に「体に良いものを食べているなー」と感じるお味でした。

「その回ごとに色が違うの。赤っぽくなる時もあるし、黒っぽくなる時もある。キビの土壌(畑)とか、肥料のやり方とか、品種もたくさんあるから、黒糖の味も変わってくるんですよ。」

工場に併設されているお店では、食べ比べが出来るように、その釜ごとの味見を出しているそう。

「梅雨明け頃のサトウキビは、生キャラメルみたいに柔らかくてまとまらないんです。その時は「はったい粉」っていう粉をまぶして丸めて出しているの。それを食べたくて待っている人もいるんですよ。」

サトウキビの畑や収穫の時期によって、様々な味と食感を楽しめる黒糖。自分好みの黒糖を見つけてみるのも楽しそうですね。

親子3代にわたって継がれる黒糖製法

水間さんのお父様が始められた水間黒糖製造工場は、創業37年。当時からずっと変わらない製法で黒糖を作り続けていて、現在は奥様と息子さんと一緒にお仕事をされています。

ここでの黒糖づくりは、サトウキビが採れる11月頃から6月頃までの期間だけ。夏の間はサトウキビ畑の管理や、釜などのメンテナンスをしているのだそう。

「昔は集落ごとに1軒は砂糖小屋があったんだけどね。大型の製糖工場が出来てからはどんどん少なくなって、いま残ってるのはうち入れて3軒くらいかな。」

息子さんにもお話を伺うと、

「最初は鹿児島で営業の仕事をやっていたんですけど、数年前にこっちに戻ってきたんです。今はこの仕事を残していきたいという気持ちでやっています。今日は寝坊しちゃったけど!」

そう明るく話す3代目に、周りの方も大笑い!
釜や攪拌など時間勝負の作業の時とは違い、椅子に座っての切り分け作業はなんとも和やかな雰囲気。すっかり魅了されてしまった私たちも、皆さんとのおしゃべりを楽しませていただきました。

今回私はお土産に「サイコロ状の黒糖」と「鍋かき黒糖」を購入。食後のお茶請けとしていただいたり、コーヒーに入れたり(コクが出て美味しい!)色々な食べ方を模索中です。
奄美の島で育った元気なサトウキビと、昔ながらの製法で生まれる水間黒糖さんの黒糖。時期によってはオンラインショップでの購入も可能なので、皆さまもぜひ一度お試しあれ!

水間黒糖製造工場
鹿児島県大島郡龍郷町中勝1400番地
0997-62-2431
HP

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