香りと旅して

香りと旅して

【京都】夏みかんの香りづくりの現場へ

今回の香り旅のテーマは “夏みかん”。
舞鶴夏みかんの会の元を訪れた編集部が次に向かったのは、同じ京都府内で精油づくりをしている株式会社アルヴェアーレさん。山の沢水や木材を使った、自然に優しい香りづくりをご紹介します。

前編はこちらから

夏みかんの香りづくりの現場へ

「舞鶴夏みかんの会」の村上さんが大切に育てた夏みかんたち。その夏みかんを使って香り(精油)が作られているということで、次に向かったのは舞鶴から車で1時間ほどのところにある京都府福知山の山の中。
今回アテンドをしてくださった地元の坂本さんも「運転が怖い!」と言うほど、細く急な山道を登っていくと、緑色のロゴマークが見えてきました。

こちらが森の精油所・株式会社アルヴェアーレを運営する小川さん。
現在京都産の樹木やハーブなど7種の精油を生産。村上さんの畑からは夏みかんを毎月100個ほど仕入れて精油を作っています。

実は小川さん、「ぶどう農園」も経営されているのだそう。
確かに、この作業場のすぐ隣には広い敷地の農園が広がっているのですが、

ぶどう?精油?

この2つがどうつながるのか、不思議に思っていると、

「ここの山や土地を譲り受けて、興味のあったぶどうの農園を始めたんですけど、山の木のせいで農園に朝日が当たらなくなってしまっていて。それで木を伐採する必要があったんです。木を捨てるのももったいないし、何かに利用できないかなと思って、それで精油づくりを始めたんですよ。」

同じ京都で精油の生産をされている会社にコンタクトを取り、精油づくりを一から勉強したのが2年前。元々建築関係のお仕事をされていたため、この精油所の施設も全て小川さんお一人で作られたというから驚きです。
さっそく作業場にお邪魔すると、奥に大きな釜が2つ並んでいて、小川さんも作業の真っ最中。

小川さんの精油所では「水蒸気蒸留法」という方法で精油を生産しています。
水蒸気蒸留法は、高温の水蒸気を原料の植物に当てて、植物中に含まれている精油成分と水蒸気を揮発、それを急激に冷却させることで、精油成分と水蒸気を凝縮(液化)して精油を抽出する方法のこと。

水蒸気蒸留法についてはこちら

蒸留を行う燃料は、なんと薪の火。
釜の下では小川さんが長い火かき棒を使って、火力の調整をしています。薪を使っているから煙もモクモク。だから釜がこんなにも真っ黒になるんですね。

「薪の高い火力だと、香りの出来が全然違うんですよ。」

木材も裏山から採れたヒノキや廃材を利用。(ヒノキは小川さん自らチェーンソーを使って伐採するそう!)安定した火力を保つため、常に火の様子をチェックしながらの作業です。

精油づくりに最も大切な「水」は、山の沢水を引いて使用しているそう。昔はわさびの栽培にも使われていたというほど綺麗な山の水。石垣の段差があるなど、当時の名残を見ることができました。

さあ、いよいよ夏みかんの精油づくりの始まりです。
香りを抽出するのは、実ではなく、この皮の部分。釜にそのままぎゅっと入れ込むのではなく、3段ほどの仕切りをつけて素材を格納。そうすることで効率よく蒸気を当てることができ、香りが抽出しやすくなるのだそう。
この状態でもすでに夏みかんの良い香りが広がっていて、編集部もうっとり。

この皮のサイズもポイントだそうで、
「これ以上大きくてもあかんし、小さくても詰まってしまうし。なかなか難しいんですよ。」

沸かしておいたお湯を下の釜に入れ込み、その上に原料の入った釜を設置。蓋をしたら準備完了です。精油は奥に設置されたガラスの中に集められていきます。

「蒸留は1時間くらいかな。オイルにするとまた上品な香りになるんですよ」

出来上がりが楽しみです!

国によって香りの好みが違う?

京都の清水寺で行われているイベントに出店した際、小川さんは国によって香りの好みが違うことに気がついたそうです。
清水寺は海外からの観光客も多い人気スポット。世界各国のお客さんと接した中で、白人系の人はヒノキなどの樹木系を、中国系の人はヒノキやゆずを、日本人はゆずや夏みかんなどの果実系の香りを好むことが多いとわかったそう。

物を作るだけでなく、実際に消費者の方と接したり、新たな目線に立つことで、面白い発見につながるんですね。
他にも蒸留を待つ間に色々なお話を聞かせてくれた小川さん。1時間があっという間です。

もういいかな。と釜の蓋を開けるとー。

もうもうとした蒸気と一緒に、甘〜い香りが一気に広がり、

「いい香りー!」
「美味しそう!」
「しあわせ〜!」

編集部たちも大興奮!

村上さんの畑で夏みかんをいただいた時は「爽やかな柑橘の香り」を感じましたが、こちらの蒸留を終えた夏みかんは、その時とは全く違う “こっくりとした甘み” を感じる香りです。

ああ、この香りをお届けできないのがとっても残念!

小川さんはガラスの容器に溜まった夏みかんの精油を丁寧に採取。季節によって皮の厚みが変わるそうで、それによって採れる精油の量もバラバラ。今日採れたのは30mlほどでした(希少!)。

採れたての精油を嗅がせていただくと、少しワイルドというか、トゲっぽさを感じる香り。あれ?釜にあった皮の方が良い香り…? 1.2ヶ月前に採ったという精油も試させていただくと、こちらはレモンやグレープフルーツに近い、爽やかでとってもいい香り!

「精油は少し寝かせることで香りが落ち着いてくるんですよ。いろんな柑橘を嗅いでみたけど、夏みかんはどの香りにも負けへんね」

こちらが今回採れた夏みかんの精油。

「舞鶴夏みかんの会」の村上さんたちが守り育ててきた夏みかんが、こうして “精油” という新たな形になって、私たちを楽しませてくれていると思うと、なんだかとってもありがたい気持ちになります。

香りを抽出した後の皮は、その辺りの山道に撒いておくと、山の鹿や猪たち食べにくるそうで、朝には綺麗になくなっているのだとか!動物たちも、美味しい香りに敏感なのですね。

心安らぐ、京ヒノキの香り

この日はヒノキの蒸留もするそうで、そちらも見学させていただけることに。
ヒノキは精油所の裏手にある山から切り出していて、小川さんの元で細かいチップにしてから蒸留をしています。

「ここのヒノキの樹齢は50年くらいかな」

真っ直ぐ伸びたヒノキは幹周りもかなりの太さがあって、とっても立派。切り倒すのも技術と経験が必要です。

ヒノキも夏みかん同様、段を分けて釜に入れ込み、1時間ほどかけて香りを抽出していきます。
一言にヒノキと言っても、部位によって香りが違うそうで、

「ヒノキも“枝葉”のところと“木”のところでは成分も香りも違うので、僕のところでは分けてオイル(精油)を作っているんです。枝葉は、花粉症の予防と緩和にいいんですよ。」

精油の抽出時にできる、香り成分が入った「フローラルウォーター」と呼ばれる水は、サウナ施設に提供しているそう。あの石にかけて蒸気を出すやつですね。

ヒノキの香りを感じて入るサウナなんて、とっても気持ちが良さそう!これは体験してみたいです。

採れたてのヒノキの精油は、とってもいい香り!夏みかんとはまた種類の違う、癒しの香りです。

「柑橘みたいな、爽やかな香りがする!知ってるヒノキと違う!」
今回の取材に初参戦した編集部員が、通なコメントをポツリ。

え、私そこまで違いがわからない、、。仲間の繊細な嗅覚に嫉妬しながら、クンクンクンと一生懸命香りを吸い込みます。

香りを抽出した後のヒノキのチップは、小川さんのぶどう畑の肥料として活用。夏みかんもヒノキも、廃棄物を出すことなく、とってもエコな香りづくりです。

水源は山の沢水、燃料は間伐材や廃材。電気やガスを使わずに、自然の恵みだけで精油づくりを続けている小川さん。

「夏場は火力を上げるのに扇風機使ってるけどね!」
と茶目っ気もたっぷり。

長年建築関係の仕事に携わってきて、農業と精油づくりという全くの異業種へ転職。迷いや不安はなかったのでしょうか。

「やりたいことやってる方が健康的だし、長生きできるんちゃうかな!笑」

肩肘張らず、新しいことに向かって楽しみながら挑戦していく姿に、なんだか元気をいただきました。“京都産” にこだわった精油づくりはもちろん、小川さんのこれからの活動にも注目していきたいと思います。

お忙しい中、快く取材に応じてくださいまして、本当にありがとうございました!

株式会社アルヴェアーレ
京都府福知山市下佐々木612
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